フォンテインズD.C.の2年ぶり3作目となるニュー・アルバム、『スキンティ・フィア』が4月にいよいよリリースされる。2017年のバンド結成から僅か5年で3 枚のオリジナル・アルバムを制作し、過去2作はどちらも紛うことなき傑作、前作『ヒーローズ・デス』は全英2位を獲得するなど、途轍もない速度と濃度でキャリアを積み重ねてきたフォンテインズD.C.。そんな彼らの待望の新作が、今年最注目のロック・アルバムの1枚であるのは言うまでもない。
タイトルの『スキンティ・フィア』はアイルランド語で「鹿の天罰」の意味で、彼らの母国アイルランドでは大鹿は絶滅危惧種だという。どうしたって悲劇や苦悩を連想せずにはいられないタイトルだし、彼らのドラマツルギーがさらに深みを抉るものになっていることを期待してしまうのだ。
先行リリースされたシングル“Jackie Down The Line”も、アルバムへの期待を際限なく高めてくれる傑作だった。フォンテインズの叙情の持ち味が最大限引き出されたシネマティックなサウンドスケープ、その叙情を躊躇なく切り裂くカウンター・ギターのタイミングが完璧でゾクゾクするし、ザ・スミスとオアシスの狭間に眠る秘宝のようなメロディにも、彼らのソングライターとしての飛躍的な成長を感じる。
《いずれ君を摩耗させ、傷つけ、捨て去るだろう。僕はJackie Down The Lineだ》と歌う同曲の「Jackie」は、ダブリン出身のアイルランド人に対する侮蔑の意味を持つ「Jackeen」をもじったものだ。つまり、この曲はバンドの活動拠点をイギリスに移した彼らがロンドンで感じる疎外感、さらには故郷を「捨て去った」自己嫌悪をもテーマにしていると推測できる。
今、これほど真っ直ぐ自分たちのアイデンティティと向き合い、音楽と文学の複合体としてのギター・ロックを濃く深く刻もうとしているバンドは滅多にいない。何となくブルーなムードをふんわりと乗せたポップ・ミュージックがトレンドを支配し、日々を覆う薄ぼんやりとした哀しみに、私たちが慣れきってしまって久しい。
だからこそ『スキンティ・フィア』が、この2022年に垂直に突き刺さることを願わずにはいられないのだ。( 粉川しの)
フォンテインズD.C.の記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。