1977年にリリースされた『アニマルズ』は、当時席巻したパンクロックへのピンク・フロイド的回答として痛烈な社会的メッセージを放った傑作だ。あれから45周年を迎えたいま、画期的な新リミックスが世に出る。
本作は、フロイドの音響に精通したジェームス・ガスリー(『ザ・ウォール』時代からスタジオ&ライブの両面を支え続けたエンジニア)が2018年に完成させていた。しかしご多分に漏れず、ロジャー・ウォーターズとデヴィッド・ギルモアとの間でライナーノーツをめぐる見解の相違などがあって4年間も陽の目を見なかった。
それはさておき肝心のサウンドだが、これこそ当時バンドが求めていた音だったはずだと、たちどころに確信してしまった。リリース当時、「前作でシド・バレットとの因縁を清算したフロイドが、なりふり構わず現代社会の本質を抉った!」と世界を驚かせた本作のインパクトが、何倍にも増幅されて蘇る。それほどここには、パンクやグランジをも威圧する「野獣性/もののけ性」が宿っている。
先行配信された17分超え大曲“ドッグ”では、前半からギルモアのギターが凄まじいソリッド感で突き刺さってくるし、中間部で歌わせるディストーションフレージングでは「バイオレントにしてエレガント」という彼の持ち味が炸裂する。さらにクライマックスで、ウォーターズの真骨頂である呪術的ヴァース=《……群から逃げようとしたのは誰だ/家族でありながら他人扱いされたのは誰だ……》が吐き出される瞬間の鳥肌ものの戦慄ときたら! “ドッグ”と共に本作の核をなす“ピッグ”、“シープ”を含め、ニック・メイスンとリック・ライトのプレイも重たく鋭く化けている。
サウンドが恐るべき本質を剥き出しにしたことで、その熾烈なメッセージ性と新次元のケミストリーを起こし、「2020年代のいま生み出された新作」と錯覚させるほどのリアリティが生まれた。45年前、バンドの内紛は激しさを増していたわけだが、そんな雑音はいっさい忘れよう。リミックスに合わせて一新された「バタシー発電所と豚のアルジー」のアートワークと共に、あらゆるジェネレーションを飛び超え2020年代の感性に突き刺さる音を、ひたすら無心に堪能しようではないか。 (茂木信介)
ピンク・フロイドの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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