シネイド・オコナー、安らかに ―― 唯一無二の声を持ち、自分の真実を守り通した才媛

シネイド・オコナー、安らかに ―― 唯一無二の声を持ち、自分の真実を守り通した才媛 - rockin'on 2023年10月号 中面rockin'on 2023年10月号 中面

シネイド・オコナーが7月26日に亡くなった。享年56。彼女は長年、心の病について告白していたし、去年1月に17歳の息子さんが自殺で亡くなっていたので、この訃報はとりわけ重く心が痛いものとなった。

アイルランド出身の彼女は、1987年、20歳で自らプロデュースしたデビュー作『ザ・ライオン・アンド・ザ・コブラ』で即注目をされ、続く1990年の『蒼い囁き』がさらにヒット。そして、ご存知のように同作収録のプリンスの曲をカバーした“愛の哀しみ”で、世界的な大スターとなる。ほぼ彼女のアップだけで作られ、孤独が剥き出しとなるそのMVを数え切れないくらい観た人も多かったのではないだろうか。

カトリック教で育てられ、ケルト音楽に大きな影響を受け、アイルランド伝統の背景を持ちながらも、ヒップホップビートと、ケルト音楽のメロディ、伝統的なアイルランドの詩や、ファンク、ストリングスなど縦横無尽に駆け巡ることで、既成概念に揺さぶりをかけ、その怒りや悲しみ、混乱や願望、彼女の問題や社会への反発も、包み隠さず正直に表現。

彼女が亡くなった後、マイケル・スタイプからレッド・ホット・チリ・ペッパーズなど、そうそうたるミュージシャン達が、次々に追悼コメントを発表していたけど、彼らにとってすら、彼女がいかに独自の声を持つ存在であり、尊敬し、一目置いていたのかが伝わってきたのが印象的だった。ビリー・コーガンも、「恐れを知らない正直な人で」「僕らの世代でも唯一無二の存在であり、世界を鋭く射抜く正直さを持っていた」とコメントしていた。ただ彼も、彼女がカトリック教会での性虐待に反発してローマ教皇の写真をTV番組で破る「反抗を、まるで犯罪でもしたかのようにキャンセルされたことも絶対に忘れない」と最後に付け足していたけど、ガービッジモリッシーも「彼女が生きていて助けが必要だった時に、誰も助ける勇気がなかった」とコメント。業界やメディアへの怒りを露わにしていた人達が多くいたことも、彼女のあり方を象徴していたように思う。

モリッシーが、「彼女は誰もが安全に沈黙している時に、言葉にする勇気がある人だった」とコメントしていたように、彼女の正直さは真実だからこそ時に厄介で、世界は怯え、目を背けることすらあったのだ。しかし、最後まで自分の真実を守り通したアーティスト。どうか安らかにお眠りください。 (中村明美)



シネイド・オコナーの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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