トム・ヨークの最新ソロは、またしても素晴らしいサウンドトラック仕事となった。彼はなぜかイタリアと緑があるようで、2018年の『サスペリア』に引き続き、今回の『コンフィデンツァ』もドメニコ・スタルノーネの同名小説を基にしたイタリアドラマの映画化作品だ。 監督ダニエレ・ルケッティは「この作品には‘‘間違った’'サウンドトラックが必要だ」と彼に提案したそうだが、トムはその意図を汲み取り、ひとりの男の精神の崩壊と放浪を描いた本作に相応しく、アンビバレントな感情の集積と放逐たるサウンドを生み出している。
『サスペリア』から引き続きロンドン・コンテンポラリー・オーケストラと全面的にタッグを組み、ザ・スマイルのトム・スキナーのアンサンブルも参加した本作は、時にアバンギャルドで、時にオーセンティック。『サスペリア」のサントラがホラー映画らしい張り詰めたテンションを常時維持していたのとは対照的に、『コンフィデンツァ』はクラシック、ジャズ、現代音楽、フォークetc.のそれぞれの辺境で気まぐれなクロスオーバーを続け、恐怖の中に潜むユーモア、哀しみの裏返しである滑稽さ、欲望とせめぎ合う諦念……といった、主人公の男のボタンを掛け違えた感情が見事に表現されている。
しかし本作で最も際立っているのは、普遍的とすら言えるソングライティングの産物であるボーカル曲だろう。愛しい人の元に訪れた亡霊の囁きのように1夢くも美しい‘‘ナイフ・エッジ’'や、重厚なオーケストラをバックに濁りのないファルセットを響かせる“フォー・ウェイズ・イン・タイム’'など、レディオヘッドやザ・スマイル以上にトム自身が剥き身で佇むそれは、彼のソロワークの醍醐味でもある。
11月には初のソロツアーで来日するトム。東名阪に加えて広島、福岡、京都と細かく回ってくれるのも嬉しいが、前述のサントラやソロアルバムに留まらず、レディオヘッドやザ・スマイルのナンバーも含む、未だかつてない集大成的なセットのスペシャルなツアーとなるのは間違いない。レディオヘッドの初来日から30年となる今年、その歴史の感慨をインテイメットな空問で噛み締めることになる日が楽しみでならない。(粉川しの)
トム・ヨークの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
Instagramはじめました!フォロー&いいね、お待ちしております。