オアシス復活なるか!? ソロ・キャリアの集大成『MTVアンプラグド』――もはや兄なしでも揺るぎない自信とプライドを手にしたリアム・ギャラガーから目が離せない

オアシス復活なるか!? ソロ・キャリアの集大成『MTVアンプラグド』――もはや兄なしでも揺るぎない自信とプライドを手にしたリアム・ギャラガーから目が離せない

新型コロナウイルス感染拡大を受けて発売が延期になっていたリアム・ギャラガーの『MTVアンプラグド(ライブ・アット・ハル・シティ・ホール)』がついに6/24にリリースされる。

同作は昨年8月に行われた「MTVアンプラグド」のスペシャル・ライブの音源化で、当日のセットリストからソロ曲、オアシス曲をそれぞれ選りすぐった11曲が収録されている。


会場となった英キングストンにある「Hull City Hall」は築100年以上の歴史を持つ由緒正しいホールで、バロック・リバイバル様式だという重厚かつエレガントな会場の雰囲気はYouTubeの公式映像からも伺えると思う。

かつての全力でイキがっていたパーカー・モンキー(兄曰く)時代のリアムからは想像できないようなシチュエーションであり、「リアムもこういう会場がしっくりくる年齢になったんだなあ…」という感慨を抱いたりも。

会場が、雰囲気がしっくりきているだけじゃない。「MTVアンプラグド」企画の要であるアコースティック主体の音響そのものも、現在のリアム・ギャラガーには見事にハマっている。企画に合わせてミッド・テンポのバラッド曲を中心に据えたセットになっていて、中でも飛び抜けて素晴らしいのが最新作『ホワイ・ミー?ホワイ・ノット』のナンバーだ。

娘への愛情を照れずに歌い上げる“Now That I Found You”の甘さにしろ、(おそらく兄との)楽しかった日々への郷愁を滲ませながら、「夢は借り物だって言うけど、ほんとだよな」と歌う“Once”の苦さにしろ、リアムのビタースウィートにして繊細な内面の情景がインティメットな「MTVアンプラグド」の空間の中でゆっくりと花開いていくのを感じることができるからだ。


艶やかな女性コーラスと24人のアーバン・ソウル・オーケストラを従えてのリアムの歌唱は盤石の一言。

ストイックに心身共にヘルシーなコンディションを心がけ、安定した歌声を手に入れたことが彼のソロ・キャリアを成功に導いた大きな要因のひとつだが、ボーカルにごまかしがきかない「MTVアンプラグド」は、まさにそんなリアムのソロ・キャリアの集大成にふさわしいステージだったのかもしれない。


ちなみにリアムにとってソロ・キャリアの集大成だった「MTVアンプラグド」は、同時にオアシス時代のトラウマに決着をつけた禊の一夜だったとも言える。

リアムが1996年のオアシスの「MTVアンプラグド」を喉の不調で当日ドタキャンしたのは有名な話だが、自分の穴を埋めて全曲一人で歌いきった当時のノエルのパフォーマンスが大絶賛されたことも含めて、彼にとって「MTVアンプラグド」が自信とプライドをズタズタにされた忌まわしい歴史だったことは想像に難くない。

それを思えば今回のオアシス曲のパフォーマンスに並々ならぬ熱量を感じるのも納得だし、“Some Might Say”の華やかなピアノ・アレンジやソウルフルな魅力を新たに引き出した“Stand By Me”(2001年ぶりの披露!)など、楽曲がモダンにアップデートされているのにも、彼の自信とプライドの回復をうかがわせるものだ。


オアシスの数曲にはボーンヘッドがゲスト参加していることでも話題だが、中でも特筆すべきは“Sad Song”だろう。

ノエルの持ち歌であるこの曲をライブで初めて歌ったリアムには、まるで23年前の借りを兄貴に返すかのような意地と(素直になれない)感謝の念を感じるのだ。

この『MTVアンプラグド』を聴いてつくづく感じることは、やっとリアムはオアシスの落とし前をつけられたんだなということだった。

「オアシスは終わっていない」と未練を引きずり、「あいつにオアシスをぶち壊された」と憤り、受け入れがたい現実から目をそらして四苦八苦していた時代を終えて、彼は「自分の中」にやっとオアシスの永遠を宿せたのだということを、朗々と、気持ち良さそうに、そして喜びを噛み締めながら歌う本作のリアムの歌声を聴いていると、つくづく感じるのだ。



最近になって「コロナウイルスの治療に尽力する医療従事者のためのチャリティとしてオアシスを再結成する」、「ノエルがやらないならノエル抜きでもやる」と、またもやオアシスの再結成について旗をブンブン振り始めているリアム。

でも、かつての彼が自分から奪われ、物を取り戻そうと駄々こねる子供のようにオアシスを求めていたのと比べると、今の彼はオアシスの代弁者のように再結成の旗を振っているという大きな違いがある。


ノエルがリアムの頭越しにオアシスの未発表デモ“Don’t Stop…(Demo)”をリリースした際に「リリースするなら俺が歌っててボーンヘッドがギター弾いてる曲にしろよ」と怒りまくったのも、オアシスはもうお前のものだけじゃないと胸を張って言える自信をソロ・キャリアの成功によって得たからだろう。

かつての「potato」呼ばわりから今回は「tofu boy」と兄貴への罵倒がアップデート(?)されている一方、ノエルの誕生日には素直に愛情たっぷりの祝福のメッセージを送った今のリアムは肩の力が抜けて本当にいい感じだし、公私ともに充実しているんだと思う。オアシスの再結成はともかくとして、このパンデミックの巣篭もりの季節を終えた後のリアムの再起動に期待したい。(粉川しの)

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