ロックの挫折を見すえたバンド

イーグルス『レガシー』
発売中
BOX SET
イーグルス レガシー

イーグルスは、ロックの歴史とアメリカの現代史を象徴するバンドである。このボックス・セットと向きあうと、あらためてそう思う。『レガシー』にはスタジオ・アルバム7枚、ライブ3枚、シングル&Bサイド集、『ヘル・フリーゼズ・オーヴァー』のDVD、『フェアウェル・ツアー:ライヴ・フロム・メルボルン』のブルーレイが収録されている。彼らの歩み全体が詰まっているわけだ。

1972年『イーグルス・ファースト』の“テイク・イット・イージー”で「気楽にいこうよ」と歌ってデビューしたこのバンドは、79年『ロング・ラン』のタイトル曲で「長い道のりだ」と疲労感をにじませ、間もなく活動を停止した。76年には『ホテル・カリフォルニア』の大ヒットがあった。アメリカ建国200年のタイミングで発表されたタイトル曲では、《69年からスピリット(酒/魂)は切らしております》とダブル・ミーニングで歌っていた。60年代後半にベトナム戦争反対のラブ&ピースで高揚したロックは、当時のスピリットを失い変質していった。そんな苦い認識がこめられている。泥沼化の後、勝利を得られないまま75年にベトナム戦争が終結し、アメリカでは建国200年記念でありながら倦怠感が漂っていた。その年にイーグルスの哀愁のメロディは、ロックの挫折とアメリカの挫折を象徴するように響いたのだ。

だが、予想以上の大成功はバンド内の緊張を高め、やがて解散に至った。1994年には再結成し、新曲もちらほら発表されたが、オリジナルの新作『ロング・ロード・アウト・オブ・エデン』がまとまったのは2007年。彼らは、70年代に背負った重荷を下ろしていなかった。“エデンからの道、遥か”の題からして28年前の『ロング・ラン』の続きであることを暗示している。エデンとは聖書に書かれた楽園だが、かつて『ホテル・カリフォルニア』の最終曲“ラスト・リゾート”では、楽園の腐敗が歌われていた。問題意識は続いていたのだ。ツイン・タワーが崩壊した2001年9月11日の同時多発テロのせいでアルバム制作が一度延期された因縁を持つ『ロング・ロード・アウト・オブ・エデン』もまた、同時代への憂いを含む作品だった。

とはいえ、イーグルスは声高に政治的主張をするのではなく、あくまで切ないメロディ、美しいハーモニー、よく練られたギター・アレンジで親しみやすい曲を作り、庶民の感情に寄り添うバンドだった。カントリー、ブルース、ロック、ディスコとアメリカの大衆音楽を吸収した彼らは、そうして歴史に残る存在になったのである。(遠藤利明)



『レガシー』の詳細はWarner Music Japanの公式サイトよりご確認ください。

イーグルス『レガシー』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

イーグルス レガシー - 『rockin'on』2018年12月号『rockin'on』2018年12月号
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする