ドロレス・オリオーダンの若すぎる死から1年余。彼女が不在のまま結成30周年を迎えたクランベリーズから、8枚目にして最後のアルバムが届いた。名盤『ドリームス』を筆頭に、幾度もタッグを組んできたスティーヴン・ストリートをプロデューサーに迎え、ノエルと生前のドロレスが作曲、デモを制作した11曲が収録されている。
まず耳に飛び込んでくるのは、やはりドロレスの歌声で、どうしてもその中から、彼女の変化を探ってしまうのだが、全く見当たらないのだ。凛とした強さと、儚げな優しさ。デビュー当時から彼女の声が持ち続けていた魅力は、今作においても揺らぐことなく発揮されている。全体的な仕上がりも、ロックとポップの調和が心地いい、悠久の時の流れの中で響き続けてきたクランベリーズのスタンダードといった趣。安心感さえ覚えるし、もしかしたらドロレスは生きているのではないか? と思えるし、最後のアルバムと言われても信じられなくなってしまう。
でも、逆に言うならば、これだけ生まれたてのような純粋さを守ってきたバンドが、よくぞここまで続いたものだ。活動休止はあったものの、彼らはドロレスが亡くなるギリギリまで制作に励んでいたわけで、そう考えると、この30年の軌跡は奇跡であると思えてならない。
ラストを飾る“イン・ジ・エンド”は、温かいアコースティック・サウンドと、ケルティックなコーラスの中で、ドロレスの歌声が耳の間近に響く。彼女たち自身も、聴き手も、解き放つような楽曲。ああ、私は、10代の鬱屈した頃にクランベリーズに出会い、こういうところに夢を見たんだ。そんなことを思い出す、集大成的な輝きに満ちている。最後までクランベリーズを貫いたドロレスとバンドに、心から尊敬と感謝を。 (高橋美穂)
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