視点の冷酷さとその奥のあたたかさ

ヨルシカ『風を食む』
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ヨルシカ 風を食む
3rdアルバム『盗作』は衝撃、というより、ボディブローのように聴き手の心をえぐってくる作品で、いまだその痛みから抜け出せずにいる人が少なくないと思うが、早くも新曲のリリース。しかも『NEWS23』のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲。『盗作』の世界観とは一転、現代社会で真っ当に生きる、普遍の人々なら誰しもが抱えているはずの虚しさを描く、非常に現実的な歌である。その虚無感の中にある、見逃してしまいそうな大切な価値観を、「売れ残り」になぞらえて歌詞にするn-buna(G・Composer)の視点は、冷酷なようでいて、実はとてもあたたかい。インターネットでの楽曲投稿を出自とするアーティストの中でも、ギターサウンドには格別なこだわりを持つn-bunaならではの、アコギの印象的なリフのループ。その抑制の効いたフレーズにsuis(Vo)の歌声が重り、描き出されていく何気ない情景がこちらの思考を刺激する。見て見ぬふり、気づかぬふりの自分の感情に目を向けざるを得ないような、穏やかながらも少なからず心の痛む作品。まさにヨルシカならではのポップ。(杉浦美恵)

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