異色作? 否、ウィーザーらしい傑作!

ウィーザー『オーケー・ヒューマン』
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ALBUM
ウィーザー オーケー・ヒューマン

近年のウィーザーの多作ぶりの背景には、メンバーの意識変化があったように感じる。2019年の2枚のアルバムがメンバー同士で楽しんで作ったカバー・アルバム(『ティール・アルバム』)と、リヴァースが一人でピアノで書いた非バンド的作品(『ブラック・アルバム』)の対比を成していたように、1作毎に明確なコンセプトが示されていくそれらは、絶対評価の視点で優れた作品を作ることよりも、ウィーザーを象るものを改めて解析し、分類した結果に聴こえるからだ。そういう意味でも今回の新作がこれまたフル・オーケストラ・アルバムとなったのも、ウィーザーの可能性に新しいインデックスを付け加えるものだと言えるんじゃないだろうか。

彼らは当初、本作より先に別の新作『ヴァン・ウィーザー』をリリースする予定だった。速弾きイントロもヴァン・ヘイレンへのオマージュたっぷりだった“ジ・エンド・オブ・ザ・ゲーム”を筆頭に、既に3曲のシングルが先行リリースされている同作は久々にギターが吠えまくるハード・ロック作になるはずだったが、パンデミックによって作業は中断、代わりに本作が先に制作→リリースされることになった。パンデミックの渦中で完成に漕ぎ着けた本作は、物理的制約だらけだったあの時期にそれでもアナログで地道な作業を敢行。『ブラック・アルバム』同様に起点はリヴァースのピアノだったそうだが、前作よりも遥かにバンドとの、38人ものフル・オーケストラとの、そして人との繋がりを感じる作品に仕上がっている。本作のタイトルは『OK コンピューター』への愛に溢れたパロディだが、レディオヘッドが予言した観念的孤独からパンデミックによる現実的隔絶へとフェーズが激変した現在、ウィーザーが本作に「ヒューマン」を冠したことは、期せずしてパロディを超えた意味を持ちつつある。

リヴァースはかつて本作について「エキセントリックなアルバムになる」と語っていたが、こうして聴くと正直そこまで奇異には感じない。確かに全編でオーケストラがフィーチャーされているのは特殊だけれど、ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』を筆頭にハリー・ニルソン、ランディ・ニューマンらの影響を受けたという本作は、何よりも粒揃いのポップ・ソング集として成立している。奥ゆかしいチェンバー・ポップからぶっ飛んだサイケデリック・フォークまで、アルチザンな拘りが詰まったハーモニーにブライアン・ウィルソンが乗り移った“アル・ゴビ”や“ナンバーズ”から、ほとんどジギー時代のデヴィッド・ボウイのようなスペース・オペラを想起させる“プレイング・マイ・ピアノ”〜“ミラー・イメージ”まで、オーケストラを縦横無尽に使って飛躍するサウンドの根っこには、マキシマムな陣容を華麗に采配するリヴァースのメロディ・メイカーとしての揺るぎない才能が横たわっている。ウィーザーらしいからしくないかで言えば間違いなくウィーザーらしい傑作であり、本作は「ウィーザー・サウンド」の汎用・応用性を証明した作品にも聴こえるのだ。

オーケストラのアプローチにも自信がうかがえる。一方ではコントラバスやビオラがウィーザーらしいメロディックなリフを刻み、ハープシコードやバイオリンがリヴァースらしい屈折したメロディ・センスに寄り添うナンバーがある。彼らはこれらの曲でオーケストラをバンドの一員として、バンド・サウンドの一部に組み入れている。もう一方には、オーケストラがまるでウィーザーの名曲をカバーしているように聴こえるナンバーもある。ちなみに後者の例のナンバーを聴いて思い出したのが、現在Netflixで大ヒットしているドラマ『ブリジャートン家』のサントラだ。19世紀初頭のロンドンを舞台にしたロマンティック・コメディである同作では、オーケストラ・アレンジされたビリー・アイリッシュアリアナ・グランデのナンバーに乗って舞踏会が繰り広げられ、200年の時空を軽々と超えてみせる。

このように恐ろしく完成度の高いポップ・アルバムでありながら、リヴァースの歌声はどこまでも生々しく、無防備なのも堪らない。《僕が好きなのはスローで悲しい曲ばっかり》《金持ちになりたいけど罪悪感を感じるんだ》と歌う“オール・マイ・フェイバリット・ソングス”を筆頭に、歌詞もまたミッドエイジ・クライシスの只中にあるリヴァースの心象が赤裸々に綴られたパーソナルな内容だ。「奥さんと子供がいる自宅でズーム・インタビューをやらなきゃいけない僕」(“プレイング・マイ・ピアノ”)なんてシーンもあって、リヴァースの揺れ動く気持ちがリアルに伝わってくる。なお、5月リリース予定の『ヴァン・ウィーザー』が対極的な作品になるのは間違いない。ウィーザーの2021年は、まさにジェットコースター・イヤーなのだ。 (粉川しの)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。
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ウィーザー オーケー・ヒューマン - 『rockin'on』2021年3月号『rockin'on』2021年3月号
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