グランジという現象を振り返った時、パール・ジャムというバンドは正史ではなかった。カート・コバーンから思いっきり「ノー」を叩きつけられた彼らは、ずっと居心地の悪さを抱えながら活動しなければならなかった。本作の中でストーン・ゴッサードが語っているが、しかし、だからこそパール・ジャムというバンドは間違えることがなかった。常に自分を顧みながら、果たして一歩一歩が一体何を意味するのか考えながら、キャリアを進めていかなければならなかったからだ。そして、だからこそ、こんな形で自分たちの歩みを振り返ることはなかった。それは自らを正当化する行為と捉えられなくもなかった。20年、これだけの歳月を経て、このバンドはようやくパール・ジャムという存在を自分たちの手で抱きしめることができたのだ。加えて監督である前に友人であるキャメロン・クロウの存在をなくして、この映画が完成することは考えられなかっただろう。
30000時間以上という素材の中から編集された本作の映像は、もちろん歴史的映像のオンパレードであり、このバンドを語る上で欠かせないエピソードの連続である。ただ本作が素晴らしいのは、彼らのステージを一度でも観た人ならば分かる通り、パール・ジャムとは何なのかを最も物語るのが、彼らのライヴであり、“今”であることが、きちんと描かれているからだ。かつてのビッグ・バンドの色褪せた伝説などではない、これからも生きていく我々のための物語。本作が最終的にそうした作品になったのは、やっぱり彼らがパール・ジャムだったからだ。もう一度だけでも来日を。 (古川琢也)
20年を抱きしめる
パール・ジャム『パール・ジャム20』
2012年01月25日発売
2012年01月25日発売
ALBUM