神はサイコロを振らないの最新デジタルシングル曲“修羅の巷”は、これまでのハイパーな神サイ楽曲のイメージとは一転、往年のブルース感やハードロック感すら漂わせる王道ロックアンセムだ。現在オンエア中のTBSテレビ 日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』挿入歌という大型タイアップ、巨匠・亀田誠治をサウンドプロデューサーに迎えての制作、という数々のトライアルのもとで生み出された“修羅の巷”はしかし、神サイのロックの肉体性のみならず「その先」へ向かうバンドの意識もドラスティックに前進させる転機となったようだ。JAPAN JAM 2023などフェス出演を経て、2023年9月には新作アルバムをリリース、さらに10月からは東京国際フォーラム ホールAを含む全国ホールツアーも決定している神サイ。その現在地と今後の展望を4人全員に訊いた。
インタビュー=高橋智樹
“修羅の巷”はアナログっていうか、人力!っていう感じ。本人たちのポテンシャルが高くないと、かっこよくなり得ない
――“修羅の巷”、強烈なロックアンセムになりましたね。ラウドな曲でもメロウな曲でも、神サイの楽曲にはどこかハイパーな洗練感があるんですけど、この曲はもっと王道ブルースロック的な、ロックの肉体性を強く感じる曲で。改めて、完成形を聴いてみてどう思いました?桐木岳貢(B) シンプルに、かっこいい曲になったなと思いますね。男らしい曲だなって。レコーディング前から意識したのは――ライブでの破壊力が結構キモっていうか。音源ももちろんいいんですけど、ライブになるともっともっと、この曲のよさが出るんじゃないかなと思います。
黒川亮介(Dr) 今は打ち込みでクリックに合わせてる曲が多い中で、あえてバンドの一発録りでできたのはいいことだなって。ちょうどライブアレンジをやったばかりなんですけど、第三者視点で聴いてもめっちゃかっこいいかも!って思えるので。ライブでやるのがすごく楽しみですね。
吉田喜一(G) 何も着飾ってないところがいいなと思っていて。デモでは、もっとビタッと合わせてる感じだったんですけど、バンドで合わせてみたら、また違うよさが生まれました。ギターの面でも、新しいアプローチもありつつ、サビのアルペジオとか、細かいところに神サイらしさは残っているので、結果的にいい塩梅になったと思ってます。
柳田周作(Vo) 挑戦的な曲になったなあと思いますね。僕はわりと、ハイパーな感じが好きなんですけど、この曲はアナログっていうか、人力!っていう感じがして。それがこの曲の魅力でもあるし――でも人力って、かっこよくもなるけど、その逆もあり得るというか。本人たちのポテンシャルが高くないと、かっこよくなり得ないし。シンプルであるがゆえに、ものすごく難しい曲だなあと思っていて。歌に関しても、歌い上げるのが今までの中でもいちばん難しい――それこそ宇多田ヒカルさんの“First Love”みたいな感じで、音程のレンジがすごく大きいんですよね。自分が書きたくなるメロディラインって、結構そういうのが多くて。そのたびに「なんでこんな難しくしちゃったんだろう?」って思っちゃうんですけど(笑)、より歌い甲斐があるというか。リハとかで合わせてみると、自分の曲なんですけど、自分のものにするのは長い道程になりそうだなって感じます。
亀田誠治さんは、アーティストが作ったものを、隠し味でめっちゃよくしてくれる人。神サイとすごく相性がよかったと思う
――この“修羅の巷”はTBSテレビ 日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』の挿入歌として制作されたわけですけども。まずはどういうビジョンを持って楽曲に取りかかりましたか?柳田 最初はほんと手探りというか……。ドラマサイドとの最初の打ち合わせの時、ドラマの画もまだできていない段階で――もちろんストーリーは把握していて、台本も読んでいたんですけど、具体的に「こういう曲を」っていうのは決まっていなかったので自由度は高かったですね。とにかく、自分のやりたいことを形にしてみて、亀田(誠治/サウンドプロデューサー)さんと一緒に肉づけしていって。「こういう曲できたんですけど、どうですか?」「もうちょっとテンポを速めて、明るめのも聴いてみたいですね」っていう感じで、少しずつお互いの理想を擦り合わせていきました。ドラマサイドとともに作った感覚もあるし、チーム一丸となって作れた気がしますね。
――今回、編曲とサウンドプロデュースで参加された亀田誠治さんとの制作はいかがでした?
柳田 亀田さんに引き出していただいた部分がめちゃめちゃ多いと思っていて。「全体像を亀田色にしていく」っていうよりも、「アーティストが作ったものを、隠し味でめっちゃよくしていく」っていう感じだったんです、今回は。その隠し味があるのとないのとでは、まったく仕上がりが違うっていう。たとえば今回、イントロとかサビ前に、ギターのワウっぽい音がほんとうっすら入ってるんですけど、それが1dBでも上がると、全体の高揚感が変わってくるんですよね。普通に聴いてるぶんには、聴き取れないような音もたくさん入っていて。普段の神サイがハイパーだとすれば、“修羅の巷”はハイパーではないんですけど、そういう隠し味が絶妙に入っているんです。あと、亀田さんもプレイヤーなので、「ああ、柳田くんはこうしたいんだろうな」っていうのを、デモから汲み取ってくれたり、僕の歌の旨味の部分を引き出そうとしてくれたりして。ベースに関しても、亀田さんが基本となるものを最初に弾いて、そこに岳貢の「こうしたい、ああしたい」っていうのが混じって、面白いベースラインができてたりするので、そういう意味でも、神サイが亀田さんと一緒にやる意味があったと思いますね。いろんなタイプの編曲家、サウンドプロデューサーの方がいると思うんですけど、亀田さんとはすごく相性がよかったなと思います。