──じゃあその手応え、自信、自由な感覚を踏まえて残りの3曲を順番に聞こうと思います。全部ばらばらなんだけど、まず“誰もが密室にて息をする”。これは結構びっくりしました。おいしくるメロンパンからこんなグルーヴが出てくるんだという。これはどうやってつくった曲なの?『antique』までが空想的で美しい、汚れを排除したようなつくりだったので、その真逆をクローズアップできたら面白いと思った(ナカシマ
ナカシマ これはギターのリフが先にできて、そっからこういう世界観というか景色だろうなって自分の中で想像を膨らませていってっていう感じですかね。『antique』までが、わりと空想的なものというか、美しい、汚れを排除したようなつくりだったものに対して、その真逆にクローズアップするっていうことができたら面白いなとは思ってましたね。現実に帰ってきた感覚というか。
──たとえば“獣”みたいなオルタナティブの極致みたいな曲もつくりたいって言ってたよね。それが思った以上の振り切り方できた感じがした。
ナカシマ そうですね。今できる振り幅の最大値って感じはありますね。
──このデモが来た時、メンバーとしてはどんな感じだった?
原 すごいめっちゃ攻撃的な、こんなタイプの曲もあるんだみたいな驚きもありつつ、同時にサビとか結構、ポップさもしっかりあるなと思って。人を掴むメロディだなと思って、めっちゃかっこいいなって思いました。
峯岸 かっけーなーって感じですね。この曲が持ってるまがまがしい雰囲気みたいなのは、今までの曲でも端々には出てきてはいたと思うんですけど、それを集めて煮凝らせてみたいな曲なので。結構おいしくるメロンパンのまがまがしくて猛々しくて激しくてみたいなところのエッセンスがすごく好きなので、マジで嬉しかったですね。「ああ、やりたかった、俺も」みたいな感じで。
──で、曲調的には対極とも言えるのが“十七回忌”。これは非常にシンプルなようで、すごく新しいって感じがしました。これはどんなふうに生まれた曲?
ナカシマ やっぱりギターのサウンド、コード進行からつくったんですけど。つくってたのも冬で、思いっきり冬な曲をつくりたい感覚でした。
──これは『antique』までの時期のきれいな世界観に近いようで、最終的に向かってるところがちょっと違うみたいな感じがしました。
ナカシマ そうですね。より現実だなっていう感じがします。今回のミニアルバムは一貫してそうですけど、この曲は特に現実に帰ってきた等身大な感じがあって、ほんとひとりの目線からしか語ってない世界っていう。
──それを内省的な感じでやっているんではなく、今、ここに生きているみたいな感覚だよね。
ナカシマ そうですね。
──それがなんで“十七回忌”というテーマになっていったの?
ナカシマ 十七回忌って、さすがになんも思わないじゃないですか。ほぼ他人事みたいになっちゃってるぐらいに感情は萎えているんだけど忘れてないっていう感じがこのタイトルはすごく表現できてるかなと思う。それでもちゃんと会いにきているという距離感なのかなっていう感じですかね。
──喪失の生々しい傷みたいなのはもうないんだけど、忘れてないし、根底には悲しみがちゃんとあるという。
ナカシマ うんうん。
人の関係って勝手にどんどん溶けていってしまうクリームソーダみたいに待ってはくれないこともある(ナカシマ)
──そして“クリームソーダ”。これもめちゃくちゃいい曲なんだけど、いちばん自由につくった感じがする、ナカシマくんが。肩の力が抜けたっていうのをいちばん象徴してる曲という感じがする。自分としてはなんでこういう曲がつくれたと思いますか?
ナカシマ なんでですかねえ。さっきも言った通りなんですけど、“未完成〜”と“群青〜”があったから、もう伝えたいところというか方針だったりっていうのはしっかりと伝わることが担保された状態だったんで、この歌詞はかなりゆるく書いてもいいんじゃないかというか。ゆるさもおいしくるメロンパンのひとつの特徴でもあると思ってるんで。それをこの曲では表現しても大丈夫なんじゃないかなって感じがしたので、なんか活動初期の頃の感覚で歌詞を書いたっていうのはありました。結構、こぢんまりとした世界観にしたいなっていうか。ふたりの関係性と、ほんとテーブルの上にあるものだけでそれをひもづけていくようなつくり方でした。『antique』までがどんどん視点が上がっていってスケールの大きいものを書いていく方向に進んでいった中で、1回それをやめるというか、その流れが終わって。もう1回ひとりの目線からやってみようっていうのは、この作品をつくる中でずっと思ってました。“クリームソーダ”もそういう感覚で。敢えて目線を下げてるというか。
──今、話を聞いてて初めて気づいたけど“色水”に近いよね。テーマ的にもちょっと似てるし、メッセージでもなく、大きなストーリーでもなく、ミニマルなふたりだけの世界のストーリーだけで書いてくという。
ナカシマ そうですね。
──ちょっと短編小説っぽい書き方。
ナカシマ あ、そうですね。すごいそういう感覚あります。
──この《最後の1行を/読まずに閉じるような/借物の永遠が/溶け出して止まない》というクリームソーダと本を巡るストーリーみたいな。これはどうやって思いついたんですか。
ナカシマ 人の関係って自分で終わらせることができるものと、勝手に終わっていってしまうものがあって。自分は最後の1行を読まないことでずっと、その関係を曖昧な状態で終わらせずに保っている。でも相手が必ずしもそれを望んでるとは限らないし、勝手にどんどん溶けていってしまうクリームソーダみたいに待ってはくれないこともある。そういう関係性が書きたいと思って。それを喫茶店に座ってる視界に広がるもので喩えてみました。
──ほんとにバランスよく、新しいおいしくるメロンパンが表現されていて。最初に峯岸くんが言った通り、5曲ですごく収まりのいいパッケージになってますよね。やっぱり今、ナカシマくんの頭の中がある程度、白紙だからこそ、むしろ今までやらなかったことをいろいろやれるんじゃないですかっていう感じがすごくする。
ナカシマ そうですね。翔雪が言った通りで音楽そのものを楽しむっていうことが純粋にできてるっていうのがあって。それをやっていくうちにまた今までと違った形のおいしくるメロンパンをどんどん確立していって、もっとその世界観を表明する方向に自ずとなるのかなと思うんで。今はほんとにどんどん出てくるものを形にして音楽を楽しんでやっていけたらいちばんいいなと思います。
ヘア&メイク=栗間夏美 スタイリング=入山浩章
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