all pics by 岡田貴之「満を持して武道館に帰ってまいりました。NICO Touches the Walls史上、最強で最高の夜にしたいと思います!」――そんな光村龍哉(Vo・G)の宣言通り、結成10年を経て日本のロックンロール求道者として押しも押されぬ存在になった彼らの今が、史上最高の形で刻みつけられた圧巻の夜だった。今年2月に初のベスト・アルバム『ニコ タッチズ ザ ウォールズ ノ ベスト』をリリースし、大きな節目の時を迎えたNICO Touches the Wallsによる2度目の日本武道館ワンマン。2010年3月の、初の武道館公演の「リベンジ」と位置づけ、並々ならぬ気合いで挑んだこの日のステージは、そのリベンジを華麗に果たすどころか、まだまだ大きくなるバンドの未来を示唆するような、凄まじくエネルギッシュなステージだった。
開場SEが突如鳴りやみ、暗転したステージに光村/古村大介(G)/坂倉心悟(B)/対馬祥太郎(Dr)の4人が登場。メンバー全員で手を合わせて「おー!」と気合いを入れた後、対馬のダイナミックなビートで幕を開けたのは“Broken Youth”だ。バチバチと点滅するライトと共にみるみるスパークしていくアンサンブル。Aメロでステージ背後の巨大LEDスクリーンにステージの映像が映し出され、場内の歓喜がワッと弾ける。客席を見渡しながら伸びやかな歌声を届ける光村の表情はとても柔らかで、リベンジを表明しての武道館ワンマンにしてはリラックスしているように見える。しかし「今この瞬間この場所は俺たちのもんだぜ!」と“THE BUNGY”に突入するなり花火がバン!と打ち上がり、轟々と燃え盛るようなブギーなロックンロールが疾走! 続く“ホログラム”では虹色のアンサンブルで武道館を包み込み、“夏の大三角形”では眩くロマンティックな音像で宇宙へと突き抜け……と、場内の空気を一瞬で塗り替えるパワーを持った名曲を次々と畳み掛け、早くもクライマックスを迎えたかのような熱狂を生み出す4人である。

もうこの時点でライヴ1本分堪能したような充実感に満ちていたのだが、NICOの地力はまだまだこんなもんじゃない。冒頭のMCを経ての“妄想隊員A”で武道館中のタオルを旋回させると、“B.C.G”では古村の流麗なアルペジオと坂倉のブリブリとしたベースラインが炸裂。光村のシャウティング・ヴォーカルも冴えわたり、場内の切迫感はうなぎ上りに高まっていく。さらに享楽的なダンス熱に溢れた“バニーガールとダニーボーイ”で盛大なハンドクラップを導くと、坂倉の超絶ビートから雪崩れ込んだ“アビダルマ”でカオスの只中へ! ザックザクのリフと散弾銃のように放たれる光村のリリック、そして爆裂ビートが嵐のように駆け巡るこの曲の甚大なエネルギーも凄いが、この曲に至るまで一瞬もギアを落とさず、1曲ごとに興奮レベルを更新しながらゾクゾクするような高揚感を引きずり出していく展開が、本当に凄い。そして、神秘的な電子音でスタートした“バケモノ”で赤黒いグルーヴを煮えたぎらせると、息がつまるほどのエモーションが駆け巡る“Diver”へ……“アビダルマ”で絶頂に達した武道館はあっという間に深い海の底に導かれてしまったわけだが、こういう緩急の効いた展開で数珠つなぎの壮大なドラマを生み出せるのは、1曲ごとに濃密な音世界を持ったバラエティ豊かな楽曲レパートリーを誇る彼らだからこそだ。

「4年前とは違うね。4年前は8千人のつもりで5千人しか来なくて。でも今日は8千人以上入っています!」と中盤のMCで語り始めた光村。ベスト盤リリース、キャパ200人の会場での20日間の篭城型ライヴ「カベ ニ ミミ」や東名阪ツアーを開催と、あらゆる角度から自分たちのモードを確かめてきた充実の半年間を振り返る。そして「『カベ ニ ミミ』の距離でやってみたいと思います」と披露されたのは、アコースティック・セットでの“Heim”“バイシクル”。重層的なコーラスに彩られた豊潤なアンサンブルが、これまで精力的に活動してきた彼らの歩みを祝福するかのように、場内に優しく沁みわたる。そこから再びバンド・セットに戻っての“Mr.ECHO”が、とても感動的だった。青空へまっすぐ飛翔していくような、晴れやかで王道感溢れるサウンド。その力強い響きが、ロックンロールの王道をたゆまず突き進んできたバンドの軌跡とリンクして、熱い感傷を誘っていく。一丸となって極彩色コーラスを届ける4人の姿を見ながら、「本当にいいバンドだなぁ」としみじみ感じ入ってしまうような名シーンだった。
その後はクライマックスへ向けて猛ダッシュ! “ローハイド”で軽やかに疾走すると、“ニワカ雨ニモ負ケズ”では「こんなんじゃ明日は土砂降りでございますよ」と煽り立て、オーディエンスの狂騒感を容赦なしに突き上げさせていく。さらに“手をたたけ”で巨大なハンドクラップを響かせ、マイクレスで「せーの!」と叫んだ光村の音頭から一糸乱れぬ大合唱を導き出すと、“天地ガエシ”で堂々フィニッシュ。まさに武道館の屋根をひっくり返してしまうようなダンサブルなサウンドでオーディエンスを飛び跳ねさせ、紙吹雪が舞い散る中で弾けるような祝祭感を生み出して華やかなフィナーレを迎えた。高々とギターを突き上げる光村の笑顔が、この日の圧勝感を何よりも物語っていた。
アンコールでは、まずは“image training”を披露。「今日やりたかったけどやれなかった曲が5倍ぐらいあります。だからこのリベンジをまた来年果たそうと思います!」と、より大きな規模のライヴを行おうとしている野望を覗かせて、オーディエンスの熱い拍手を誘っていく。一生リベンジ、ひとつ壁をクリアしたら、また次の壁ができてくる。この尽きることない闘争心こそがNICO Touches the Wallsを突き動かす原動力である。そんな果てなき夢の道行きを翌日にリリースを控えた新曲“TOKYO Dreamer”で描き出し、最後は“N極とN極”で完全燃焼! 「引き続き僕らのリベンジに付き合ってください!」という光村のラスト・メッセージに万感の拍手が沸き起こったところで、2時間半弱に及んだステージは幕を閉じた。
バンドのキャリアを凝縮したような強力な内容で、終始にわたって途方もないエネルギーを爆発させた渾身のアクト。名曲揃いのセットリストで完璧なショウを創り上げてしまった4人には驚くばかりだが、まだまだ聴きたい曲がある、という一抹の寂しさが終演後に残ったのも正直なところだった。それも、武道館を完全掌握して余りあるほどの大きなバンドにNICOが成長した証。その成長をいかんなく刻みつけたステージだったし、すでに彼らの視線は未来へと向いている。それを強く実感させるような、素晴らしい一夜だった。(齋藤美穂)
■セットリスト
01.Broken Youth
02.THE BUNGY
03.ホログラム
04.夏の大三角形
05.妄想隊員A
06.B.C.G
07.バニーガールとダニーボーイ
08.アビダルマ
09.バケモノ
10.Diver
11.Heim
12.バイシクル
13.Mr.ECHO
14.ローハイド
15.ニワカ雨ニモ負ケズ
16.手をたたけ
17.天地ガエシ
(encore)
18.image training
19.TOKYO Dreamer
20.N極とN極