「人生というのは時に残酷で、ものすごく素晴らしいものだと思っている。だから諦めずに前を向いて歩き続けてください。俺らに変えられるものが沢山あります!」――Taka(Vo)のエモーショナルなMCが、渾身の思いで放たれる歌と音とともに、3万人のオーディエンスひとりひとりの心に深く刻み込まれていった。昨秋からワールド・ツアーを展開、約1年半ぶりのシングル『Mighty Long Fall / Decision』を7月30日にリリースしたONE OK ROCKによる、自身初のスタジアム・ライヴにして今年唯一の国内ワンマンとなる横浜スタジアム2DAYS公演。その2日目のステージは、今や時代の先頭を突っ走るロック・バンドとなった彼らが更なる高みを目指してパワフルに突き進んでいることが、リアルに窺えるアクトだった。と同時に、オーディエンスをひとりも置き去りにすることなく輝かしい未来を共に切り拓いていこうとする強靭な使命感が、鮮やかに浮かび上がった感動的な一夜だった。
オープニングから度肝を抜かれた。SEのスタートと同時に巨大な横断幕で覆われていたステージが露わになり、後方のステージがせり上がると、ドラムセットと共にTomoya(Dr)が登場。続いてステージ両翼の花道の先端からToru(G)とRyota(B)、ステージ中央からTakaがそれぞれせり上がってくると、「行くぞ!」の合図から“アンサイズニア”でスタート。観客エリアに伸びる花道に飛び出したTakaが「お前らの気合いをもっとみせてくれよ!」と煽り立てる中、観客一丸のオイコールが轟々と吹き荒れる。さらに“Deeper Deeper”“Nothing Helps”の連打でヘッドバンキングの波を出現させた後、Tomoyaの勇壮なドラミングから幕を開けたのは“Let's take it someday”。「もう分かっているよな? このタイミングでこの曲をやる意味が!」というTakaの扇動からオーディエンス全員しゃがんでの一斉ジャンプが豪快に決まり――と、冒頭4曲で早くもクライマックスのような歓喜を生み出してスタジアムを完全制圧してしまった4人であった。
その後も身震いするようなアクトの連続。熱い友情を綴ったロック・バラード“C.h.a.o.s.m.y.t.h.”も、心の深淵へ潜り込むような“Clock Strikes”も、会場の大きさに負けないどころか、あたかもこの規模で鳴ることを最初から運命づけられていたようなスケール感で鳴り響いていることに驚かされる。コンセプチュアルなジャム・セッションから突入した“69”では、人生賭けてバンドに挑む決意を綴ったリリックがダイナミックに炸裂。さらにメタリックなサウンドと共に会場一丸のオイコールが空高く轟いた“未完成交響曲”へ! スタンディング仕様のアリーナエリアのあちこちでは巨大なサークルモッシュが出現し、バンドとオーディエンスが一体となって衝動をぶつけ合っていく会場の狂騒感は、1曲ごとに高まるばかりである。
そして。「この新曲で俺たちと一緒に会場に穴を開けようぜ!」とスタートした“Mighty Long Fall”がすごかった。心にうごめく赤黒い感情を音にしたような、ヘヴィでシリアスなサウンド。無数の火柱と共にスリリングに噴き上がる轟音は、スタジアム全体が巨大な心臓となってドクドクと脈打っているような、壮絶な風景を描き出していた。そんな戦慄のパフォーマンスを終えて、客席から沸き起こったのは地鳴りのような大歓声。アッパーに弾ける楽曲ではなく、エモーショナルなバラードでもなく、重たいビートと鬼気迫る絶唱がトグロを巻くこの曲でオーディエンスの心に火を点けてしまったところに、彼らの確かな進化を感じる。6thアルバム『人生×僕=』リリース以降の国内外でのライヴ行脚を経て、格段にスケールアップしたONE OK ROCKサウンドの最新型をまざまざと見せつける、迫真のパフォーマンスだった。
「今日皆さんは色んな想いでここに来てくれていると思うけど、それは俺らも一緒なんだよ。すごい想いでこのステージに立っています。俺らはこうしてバンドをやっているけど……この中にも色んな夢を追いかけている人がいると思う……そういう人たちと変わらない、同じ夢を追いかけている人間なんです。だから俺らの与える影響なんて皆さんの人生の中ではこれっぽちしかなくて、でもそれでいいと思っています」
“Mighty Long Fall”の重たいグルーヴを“Living Dolls”の眩いメロディで塗り替えた後、Takaはこう語りかけた。今やロック・バンドとしての輝かしい栄光を手にし、誰もが憧れるスター街道を突き進んでいるONE OK ROCK。しかし孤高の存在として現実離れした夢を見せるわけではなく、同じ夢を追い続ける仲間として、聴き手の心を突き動かす原動力であろうとする強靭な意志が、その言葉から透けて見えていた。そして冒頭に記したMCを続けると、オーディエンスが掲げるケータイの光が場内に溢れる中で“Be the light”を披露。己の成功に甘んじることなく、ただひたすらにラウドなサウンドを鳴らすことでシーンの先頭に立ったONE OK ROCKだからこそ放てる「未来は自分の手で変えていける」というメッセージが、スピリチュアルなサウンドと相まって優しく、リアルにオーディエンスひとりひとりの心に沁みわたっていった。
その後は、花道の先端に設けられた特設ステージに移動してのアコースティック・セットへ。ヴァネッサ・カールトンの“A Thousand Miles”のカヴァー、1stアルバム『ゼイタクビョウ』収録曲の“欲望に満ちた青年団”で柔らかなハンドクラップを誘い、オーディエンスと親密なコミュニケーションを結んでいく。さらにTakaとToruのふたりで前日封切したばかりの映画『るろうに剣心 伝説の最期編』の主題歌“Heartache”を披露してメイン・ステージに戻ると、再びバンド・セットで“Decision”をプレイ。地平の彼方へ届くような雄大なサウンドで壮大な景色を広げたところで、鉄壁のアンセム“Re:make”投下! 「今日は声が枯れるまで行くからな!」というTakaの絶叫と共にオイコール巻き起こる場内のヴォルテージは“恋ノアイボウ心ノクピド”“NO SCARED”の連打でうなぎ上りに上昇し、本編ラストの“完全感覚Dreamer”で頂点へ! エッジ感の塊のような轟音と、ステージを降りてアリーナエリアをダッシュするTakaの絶唱がこれでもかと吹き荒れて、夜空をブチ抜くような巨大な歓喜が弾ける壮絶なラストを迎えた。
「この2日間は夢を見ているというより、とんでもなくリアルな現実を見せつけられているような気がしました」――アンコールに現れるなりTakaが告げた言葉に、再び胸を熱くさせられた。聴く者すべてのネガティヴな感情を引き受けて、時にラウドに、時に優しく鳴り響くONE OK ROCKの音楽。享楽的で幻想的なパーティー・ロックではなく、己の闇と真正面から向き合った屈強なロックンロールで痛みや哀しみを乗り越えていこうとする彼らの描き出す風景は確かに、夢の世界ではなくとんでもなくリアルな現実そのものだ。彼らは己の音とパフォーマンスをひたすらに鍛え上げることで、その現実でもって巨大なスタジアムを埋めるオーディエンス全員の心を一瞬で燃え上がらせる破格のパワーを獲得するに至った。アンコールでの“Wherever you are”と“キミシダイ列車”の2曲にも、そんなONE OK ROCKの軌跡が鮮やかに映し出されていた。そして「心の中でムズムズしているものは、やがてネガティヴな感情に変わります。そうなる前に、どうか皆さん、自分のやりたいことを始めてみてください!」と大ラスを飾ったのは“The Beginning”。エネルギッシュな音塊が鳴り止むと、終演を告げる花火がスタジアム後方からバンバン打ち上がって圧巻のフィナーレへ――全てを燃やし尽くしてステージに倒れ込むTakaに、4人で手を取り合ってお辞儀をするメンバーの姿に、惜しみない拍手と歓声が送られた。
この後、ONE OK ROCKは10月末から年末にかけてアメリカ/南米/ヨーロッパへと及ぶ海外ツアーを実施。世界中のオーディエンスの想いを受け止めて、更なる進化を遂げて日本に帰ってくるであろう彼らの次なる一歩が、今から楽しみで仕方ない。(齋藤美穂)
ONE OK ROCK@横浜スタジアム
2014.09.14