キティー・デイジー・アンド・ルイス @ 渋谷クラブクアトロ

とびきり粋で洒脱で、しかも想像以上にエモーショナルなステージであった。末っ子キティ、長女デイジー、真ん中のお兄ちゃんルイスによるダーハム兄弟が、ミック・ジョーンズをプロデューサーに迎えて製作した『キティー・デイジー&ルイス ザ・サード』を携え、大阪と東京で行った初の単独来日公演。盛況の渋谷クラブクアトロである。キティとルイスが喝采に応え、グラッツの愛称で知られるマスタリング・エンジニアの実父グリーム・ダーハムがアコギを手に腰掛けると、真紅のスーツを纏った実母イングリッド(ザ・レインコーツの結成メンバーでもあった)がベースを構える。そして最後にデイジーが、シルバー地に蛇のデザインをあしらった派手なボディ・スーツに身を包んで「トーキョー!」と景気良く声を上げる。音楽一家の、ほのぼのとしながらもエキサイティングなステージが幕開けだ。

ヒルビリーやジャンプ・ブルース、ホンキートンクなどロックンロールのルーツを見渡し、めくるめくパート・チェンジで見せるそれぞれのマルチ奏者ぶりにおいてもショウの楽しさを増幅させるキティー・デイジー・アンド・ルイスだが、デビュー・アルバムのレコーディング時に10代だった3人も今や立派な大人。新作は、ヴィンテージな音の感触のみならず、巧みな作曲と演奏をがっちりと届ける作風になっていた。今回のステージではその新作曲がたっぷりとフィーチャーされ、スティーヴィー・ワンダー風の豊かなグルーヴを練り上げる“Feeling of Wonder”(タイトルにも洒落が効いている)、ルイスが張りのある歌声でピアノを奏でながら歌うロックステディ“Baby Bye Bye”と、存在感のあるナンバーを次々に放ってオーディエンスを沸かせるのだった。

キティがその細い腕でやたらソリッドなドラム・プレイを披露する“Don’t Make A Fool Out of Me”をフィニッシュすると、彼女が「ジャマイカからのヴェリー・スペシャル・ゲストよ!」と招き入れるのは、名トランぺッターのエディ・“タンタン”・ソーントンだ。でかい声で「イエーイ! アイシテルー!!」と煽りまくり、“Turkish Delight”でのトランペットもすこぶる力強い。おかしいな、もう結構な歳になるんじゃないかと思って調べてみたら、とっくに80を越えていた。元気過ぎである。“Whenever You See Me”も、曲のイメージを変えてしまうぐらい強烈なトランペットを吹いていて可笑しい。“Good Looking Woman”まで中盤の3曲で、見事に賑やかしの役回りを担うタンタンであった。

キティがギターのソロ弾き語りで始める“Never Get Back”や、デイジーによるピアノ弾き語りの“No Action”は、それぞれ曲の良さと高い技量が際立ち、抑制の効いたアレンジで沸々と展開する。個人的にはハイライトの一幕であった。ルイスがツアーの長い行程と日本の素晴らしさについて語り、それぞれの故郷に思いを馳せるように届けられるのは“Whiskey”である。そして本編は、スタンディング・ドラムを叩くデイジーと、ブルース・ハープを鋭く吹き鳴らすキティが一本のマイクに寄り添って歌い、オーディエンス一斉のクラップを巻き起こす“Going Up the Country”で締め括られる。

アンコールに応えると、反復フレーズを用いて長尺で披露される“Say You’ll Be Mine”がまた熱かった。デイジーは、ユニークなリズム・パターンを一心不乱に刻み続けている。やればやるだけ、ポップ・ミュージックの引き出しが開いて止まらなくなってしまう感じだ。キティー・デイジー・アンド・ルイスはプロフェッショナルな芸人魂を見せつけるバンドだが、その根底には音楽に対する無条件の信頼と、人間らしい衝動が渦巻いている。彼らはこの翌日、ARABAKI ROCK FEST.15に出演し、今夏のフジロックではまた日本の地に戻って来る予定だ。(小池宏和)
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