舞台中央にギタースタンドとマイク、上手にハーモニウム(リードオルガン)の機材、後方にシンバルなどパーカッションのセット、そして下手にはなぜかワインとグラスを乗せたテーブルセットが用意されたステージに、ダミアンがゆっくりと登場したのは、開演予定の19:30を20分ほど過ぎた頃だった。会場の静かな熱気とじっくりギアを合わせるように“Older Chests”“Delicate”と1stアルバム『O』収録曲を歌い上げる、繊細にして豊潤なヴォーカリゼーション。ブルースとフォークが美しく絡み合う、物憂げな楽曲世界。ダミアンの指がアコギの弦を滑る音やエフェクターのノイズまで聴こえるような張り詰めた静寂の中、最新作から“My Favourite Faded Fantasy”のメロディを歌い奏でるダミアンの音像がしだいに歪み、やがて衝撃波の如き轟音へと昇り詰め、客席に感激と戦慄が走る。
音源では多彩な音像を駆使して表現している楽曲群を、アコギとエフェクター、ルーパーを駆使して、サポート・ミュージシャンの手を借りることなく表現していくダミアン。“9 Crimes”では、痺れるようなディストーション・サウンドと、ルーパー(フレーズ・サンプラー)のサウンド・オン・サウンド効果で次々に歌とサウンドを織り重ね、ひとりオーケストラ的なスケール感を描き出していく(“Long Long Way”ではさらにハーモニウムのミステリアスな響きも加わる)。その一方で、下ネタありありのジョークとシリアスなメッセージが秒刻みでスイッチングされるような独特のMCも、広い会場のステージと客席の距離感をぐっと縮めていく。
そんな「ダミアン・ライスと仲間たち」状態のまま“Cannonball”、さらに観客のリクエストに応えて“Elephant”“Eskimo”を披露した後、本編ラストを飾ったのは“It Takes A Lot To Know A Man”。アコギのみならずクラリネットやベル、舞台後方のパーカッション・セット、さらにここまで登場しなかったテレキャスターまで弾きまくって音を重ね合わせ、オーディエンスの憂いや悲哀といった感情丸ごと「ひとり轟音フォーク・ブルース」の力で空に解き放ってスパークさせるような、凄絶な場面を生み出してみせた。
MCの長さが祟ったのか、本編終了の時点でとっくに22時を過ぎており、アジアツアーでは4曲前後演奏しているアンコールは会場の都合で“Rootless Tree”“The Blower's Daughter”の2曲止まりとなったものの、まだまだ歌い足りなかったらしいダミアンは終演後にも会場外で2曲披露。奇跡の一夜をさらに美しく彩ってみせた。ソロ・デビューから14年でようやく実現した来日公演。ダミアン・ルイスと日本の物語がいよいよ始まった――という実感に満ちた、濃密なアクトだった。(高橋智樹)