エリカ・バドゥ @ Billboard Live TOKYO

エリカ・バドゥ @ Billboard Live TOKYO - Photo by Masanori NarusePhoto by Masanori Naruse

傑作となった2010年の『ニュー・アメリカ パート・ツー』以降、5年ほど沈黙が続き、最新作は2015年にミックステープとしてデジタル・リリースした『But You Caint Use My Phone』となっているエリカ・バドゥ。ソウルキャンプへの出演とともに実に7年ぶりの単独公演も実現し、今回もまたどこまでも濃厚でグルーヴに満ちたその独特なソウルを繰り広げる唯一無二の存在感をみせつけてくれた。

まずはバンドが登場し、キーボード、ドラム、パーカッション、コーラス隊とベースという編成で長いイントロによるウォームアップが続き、ベースからキーボード、そしてコーラスへと掛け合いが続き、ひとしきりバンドの演奏の終わったところで、エリカ・バドゥ登場。かさの高いパナマハットと山吹色のロングコートを羽織ってゆっくりとステージに登場した途端、客席からは歓声が沸き上がり、その独特なカリスマをいきなりふりまきながら本編開始となった。

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1曲目は最新作からの"Hello"で、もともとはアンドレ3000とのデュエットとなる曲なのだが、2番のエリカの歌からをメインに構成し直したものになっている。特に冒頭のコーラスから最初のヴァースにかけてはコーラスとともにアカペラとしてアレンジしたバージョンになっていて、これがまたすごかった。アルバム・バージョンだと、とてもスウィートなバラードとして出来上がっているのだが、このアカペラ・バージョンだと妙にアフリカン・エスニックなバイブがこのボーカル・ワークから立ち上がってきて、いきなりエリカならではの懐の深さを垣間見せるパフォーマンスになっていたのだ。さらに途中からはバンド・アンサンブルが乗っかってきて、ゆったりとしたファンク・グルーヴをこのボーカルともに聴かせる厚い演奏となっていく。その演奏そのものがすでに説得力に満ちたオーラに溢れていて、単純に存在感がすごいと思わせるところに畏れ入った。

続いてはジャズ・バラード的なピアノの伴奏とともに始まる『ニュー・アメリカ・パート・ツー』からの"Out My Mind, Just In Time"で、どうにもならない泥沼のような関係性のすれ違いとその心境を吐露するそのボーカルとパフォーマンスはあまりにも圧倒的なものだ。ジャズ、ブルース、R&B、ソウル、ヒップホップを融合するなどという生半可な解釈を越えて、そうしたジャンルをすべてを包含してもエリカの歌は傑出した表現力とスタイルを誇っていることを見せつけるものとなっていて、深い感銘を受けた。

Erykah Badu - Love Of My Life

一転して、エリカは自分の傍らにあるパーカッション・パッドを叩きながら、イントロの導入となるとっかかりを作り出し、そのまま演奏は『バドゥイズム』からの"On & On"へ。観客はここで大喜びで、ネオソウルの女王タイムへと突入していく。続いたのは"Love of My Life"で、パーカッションとキーボードとともに一斉に演奏に入るとカリビアン・テイストがとてつもなく強くなる。もともとヒップホップへのオマージュであり、コモンの"I Used To Love H.E.R"へのアンサー・ソングとして有名なこの曲にまた別な光が当たり、ライブならではの発見にもなった。

エリカ・バドゥ @ Billboard Live TOKYO - Photo by Masanori NarusePhoto by Masanori Naruse

その後はまたパーカッション・パッドからイントロに入り、強烈なベースのリフを軸にした最新作からの"U Don't Have to Call"を披露。この曲は、もともとはアッシャーザ・ネプチューンズの同名曲をどこまでも自分の曲として解釈した痛快な楽曲だ。ハーモニーと不協和音のぎりぎりのところをこれまでもかと攻め込んでいく果敢なトラックで、ミックステープの方はエレクトロニックなアレンジを前面に打ち出した短いトラックとなっているが、ここでは見事な厚いバンド演奏としてたたみかけられ、後半からは"I Want You"へと雪崩れ込んでいくすさまじい展開にもなった。

ある意味でデビュー以来、変わらないエリカの独特なソウル的世界を縦横無尽に披露していくライブだったが、特に際立っていたのはこの日は特別な曲が多過ぎるセットになっていたことだ。ためが超絶的に効いたファンクとエリカのボーカルと歌詞がどこまでもかっこよすぎる"Annie Don’t Wear No Panties"や"Back in the Day (Puff)など、終盤ではレア曲が続き、締めとなったのはアウトキャストのヒット曲で自身も客演した"Humble Mumble"で、途中は強烈なジャム・セッションとメンバー紹介となり、そのまま感動的なフィナーレとともに終わった。

エリカ・バドゥ @ Billboard Live TOKYO - Photo by Masanori NarusePhoto by Masanori Naruse

本人もライブ中にMCで触れていたように、今年は不朽の名作にしてファースト『バドゥイズム』のリリース20周年となるわけだが、この新曲群とレア曲による内容があまりにも素晴らしすぎて、エリカのアーティスト根性をみせつけられたような気分だった。ある意味で『バドゥイズム』収録曲連発という内容を予想していないでもなかったが、見事にそうではない結果でねじふせられたことに、とても頼もしい感動を覚えてしまった。(高見展)

エリカ・バドゥ、今後の公演は以下の通り。
ビルボードライブ東京:10/3(火)、6(金)、12(木)
ビルボードライブ大阪:10/9(月・祝)、10(火)
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