さて、今回のライブレポートはツアー初日ということもあるので、演奏曲や演出内容の詳細に触れることは控える。LITTLE、KREVA、MCUの3人がそれぞれに今回のツアーに寄せて語った言葉についても、実際にライブ会場で触れるのを楽しみにしてもらった方が良いだろう。それでも、以下は楽曲タイトルなど少々のネタバレを含むので、今後のツアー日程に参加する方は閲覧にご注意を。各地公演の終演後に読んでいただけると、とても嬉しいです。
9月に武道館で行われた「復活祭」はゲストアーティストを招いたイベントであり、限られた時間内に凝縮されたキックのステージは新作曲の披露も僅かに留まった。その点、今回のツアーは期待どおりの新作ツアーである。あの3人が、半ば伝説化していたと言っても過言ではないKICK THE CAN CREWのブランドを裏切るはずもなく、彼らのマイクリレーはオープニングの1曲目から素晴らしかった。ただ節回しがタイトに纏まっているというのではなく、リリックの意味をあらためて沁みわたらせる三者三様の経験を活かしたマイク捌きを繰り広げることで、かつての名曲群も、新作曲も、いちいち確かな体温と感情が宿されているのだ。
例えば、年輪を重ねたぶん、悶々とするモラトリアムが濃度を増した“アンバランス”があれば、ニューソウル風のトラックに乗せて物思いに耽る感情と時間を鮮やかにシンクロさせる新作曲“また波を見てる”もある。卓越したラップのスキルを持ちながら、誰にも言い表せていなかった思いの機微をつぶさに捉えるために技術をフル稼働させる3人のパフォーマンスは、たとえアップリフティングではなくとも、人々を巻き込むスタンダードな響きを持っている。
ソウルフルな歌唱パートも受け持つKREVAは、3MCのステージでは本当に伸び伸びと楽しそうだ。「何おまえ、また喋らないキャラになったの?」とイジられるLITTLEは、しかしここぞというときに高速パンチラインをきっちり決めてゆくさまがすこぶるカッコいい。パンダのシャンシャンばりに大方の人がお目当てに来ていると語られてご満悦のMCUは、変わらぬマイペースぶりで確かな存在感を残していた。そして、いよいよレギュラーDJとしての活躍を見せている熊井吾郎。音出しで派手なミスをして笑いのネタにされてしまったけれど、まるで語るように雄弁なスクラッチングも披露しつつ、濃密なヒップホップショウを支えている。
哀愁も不安も情熱もハジけた高揚感も、ありとあらゆる形で言葉に乗せて届けられてきたステージの終盤、オーディエンスに預けられたコーラスの素晴らしさは、メンバーも賞賛を惜しまなかった。確かなコミュニケーションのために練り上げられたライブが、人々を駆り立て、結実した瞬間だったと言っていいだろう。ただ早口で韻を踏むだけのラップをやりたいわけじゃない。ただ一辺倒に踊らせたいわけじゃない。本当にたくさんの思いを共有しようとしたライブだったからこそ、それが「届いた」と明らかになるあの大合唱は美しかった。このツアーは絶対に成功する。そう確信させてやまない、初日のステージであった。(小池宏和)
終演後ブログ