●セットリスト
1.ジュディ
2.サイキックNo.9
3.A HENな飴玉
4.Oh! Golden Boys
5.STONE BUTTERFLY
6.DEAR FEELING
7.GIRLIE
8.This Is For You
9.DONNA
10.仮面劇
11.遥かな世界
12.月の歌
13.薬局へ行こうよ
14.I CAN BE SHIT,MAMA
15.天道虫
16.甘い経験
17.SUCK OF LIFE
18.離れるな
(アンコール)
EN1.毛皮のコートのブルース
EN2.街の灯
EN3.真珠色の革命時代 〜Pearl Light Of Revolution〜
EN4.アバンギャルドで行こうよ
EN5.悲しきASIAN BOY
EN6.I don’t know(新曲)
「また今年も、この日を迎えることができました。我々の愛する神聖なる日本武道館で、この年末、12月28日――THE YELLOW MONKEYがこのラインナップになった記念すべきバースデーです」
満場の日本武道館に語りかけた吉井和哉(LOVIN/Vo・G)が、「『FINAL』なんていう、ヒヤッとするような冠がついてますけど、あまり気にしないように(笑)。今夜は心の汚れを今年のうちに、心の大掃除を一緒にしてください!」と続けると、この日を待ち侘びたオーディエンスの一面の拍手喝采が巻き起こっていく――。
1989年12月28日に現ラインナップで初めてライブを行ったことを記念して、THE YELLOW MONKEYが普段のライブで日の目を見ない初期曲/レア曲/コア曲を演奏するライブシリーズ「メカラ ウロコ」。
2016年の再集結後にも行われてきたこの「メカラ ウロコ」だが、「THE YELLOW MONKEY SUPER メカラ ウロコ・29 -FINAL-」というタイトルが冠された今回のステージに際しては、会場には開演前から期待感と同時に一抹の動揺も漂っていた。が、そんな想いも含めて観る者すべてを真正面から受け止めてバンドの「その先」へと導いていくような力強さが、この日のアクトには終始満ちあふれていた。
舞台は背面や側面が全開放され、1階・2階席は舞台後方まで360度埋め尽くされた中、吉井和哉、菊地英昭(EMMA/G)、廣瀬洋一(HEESEY/B)、菊地英二(ANNIE/Dr)とサポートキーボード=鶴谷崇の5人がオンステージ。どこか荘厳さすら漂う“ジュディ”のアンサンブルと歌声が客席の合唱を呼び起こし、「メカラ ウロコ・29!」という吉井のコールとともに“サイキックNo.9”でミステリアスなロックンロールの加速感を描き出すと、一面のシンガロングは刻一刻と高まっていく。
“A HENな飴玉”(3rdアルバム『jaguar hard pain 1944-1994』/1994年)、“Oh! Golden Boys”(1stアルバム『THE NIGHT SNAILS AND PLASTIC BOOGIE(夜行性のかたつむり達とプラスチックのブギー)』/1992年)を挟みつつ“STONE BUTTERFLY”、さらに今度は20人編成のストリングスセクションを迎え入れて“DEAR FEELING”、“GIRLIE”へ――といった具合に、この日の序盤は解散前の最終アルバム=8thアルバム『8』からの5曲(しかもそのうち“サイキックNo.9”を除く4曲は再集結後ライブ初披露、2001年1月の東京ドーム公演「メカラ ウロコ・8」以来の演奏となる)を主軸として展開されていたのが印象的だった。
2019年4月17日(水)に19年ぶりのニューアルバム『9999』リリースを発表しているTHE YELLOW MONKEY。後のMCで吉井自身も「我々はアルバム世代なので、アルバムをみなさんの前に出さないと、正式な復活をしたとは言えない、と正直思っていました」と話していた通り、『8』以降19年に及ぶアルバムの「空白」の時間を埋めて新たな未来図を描こうとする意志が、『8』の楽曲群の熱演からも確かに伝わってきた。
THE YELLOW MONKEYにとっては2018年はこの「メカラ ウロコ」が唯一のライブ。自らの思い入れの深い楽曲群を、吉井は「我々の曲は基本的に、商店街のような――アーケードみたいなね、いつの時代も今っぽい曲がなくて(笑)」、「今日は『閉まってたはずのシャッターが開いてた!』みたいな曲をいっぱい用意しておりますので」と悪戯心とユーモアたっぷりに紹介しつつ、“This Is For You”、“DONNA”、“仮面劇”と初期の甘美でディープな背徳感に満ちたナンバーを1曲また1曲と今この瞬間に解き放っていく。
昔の衣装から型を取って新たに作ったというHEESEYの出で立ちに歓声が巻き起こったり、「昔はみんなにLOVINと呼ばれてたけど、最近はあんまり……」という吉井の言葉に客席から次々に「LOVIN!」コールが飛んだり、EMMAによる「土偶と埴輪の違い」の豆知識に続けて「埴輪!」、「土偶!」の合図で「メカラ ウロコ」お馴染みのキャノン砲が飛び出したり……とステージ上のメンバーはこの時間を全身で謳歌するかのように開放的な空気感でライブを繰り広げていく。
そんな中、「THE YELLOW MONKEYのコアな部分の曲を……」と“遥かな世界”、“月の歌”を立て続けに披露、さらに“薬局へ行こうよ”、“I CAN BE SHIT,MAMA”を経て、今年11月に配信リリースされた新曲“天道虫”をライブ初披露。THE YELLOW MONKEYの妖艶な世界観を体現する吉井の歌とEMMAのソリッドなリフ、HEESEY&ANNIEのタフなビートがスリリングにせめぎ合いながら、武道館を熱く激しく震わせていった。
“甘い経験”、“SUCK OF LIFE”のシンガロングとクラップで客席をなおも熱狂の渦へと誘ったところで、「1996年に『メカラ ウロコ・7』という――『とても大事な子供たちを、みなさんに聴いてもらいたい』という日を設けて。個人的にもバンド的にも、ファンのみなさんも、伝説の一夜になったライブがあって。それがずっと続き、今夜ついに『メカラ ウロコ』はファイナルということになります」と吉井が静かに語りかける。
「これから我々は、どんどん先を見て――たくさん曲が増えていくと思いますので、一回こういう忘年会的なことを、『メカラ ウロコ』という名前をやめてみようかと」……今後への決意をこめて「FINAL」の真意を語った吉井の言葉に続けて、本編の最後に鳴り渡ったのは“離れるな”。7thアルバム『PUNCH DRUNKARD』の113本に及ぶツアーで必ず演奏されたこの曲が、脳裏と魂にひりひりと焼き付くような熱量をもって響いていた。
アンコールの冒頭では「インディーズ時代にやっていた曲で、今までレコーディングもしたことのない曲があるんですけど。個人的にはすごく好きな曲で……」と“毛皮のコートのブルース”を披露する一幕に、会場の歓喜はなおも熱を帯びていく。“街の灯”からは再びストリングス陣が舞台に登場、ロックバラードの名曲“真珠色の革命時代 〜Pearl Light Of Revolution〜”をひときわ壮麗に響かせていった。
「メカラ ウロコ」ならではの“おそそブギウギ”でANNIEが♪おそそブギウギもこれでファイナル〜 平成最後にファイナル〜 と歌い上げ、「来年はツアーいっぱいやります!」と勢いよく宣誓したところで、ストリングスと一丸の“アバンギャルドで行こうよ”のグラマラスな躍動感で武道館を揺らし、「Yes, sir!」の吉井のコールと特効の花火から“悲しきASIAN BOY”へ流れ込み、レッドゾーン超えの祝祭感を生み出していく。
「いよいよ来年、THE YELLOW MONKEYの9枚目のアルバムがリリースされます!」と吉井は、スタッフひとりだけを伴って4人でカリフォルニアに渡って制作したという新作『9999』への想いを語る。「荒削りな部分もあります。ただ、このバンドでしか鳴らせない音が詰まっていると信じています」――そんな言葉とともに最後に披露されたのは、新曲“I don’t know”。THE YELLOW MONKEYの歌世界のメランコリアとサイケデリアを高純度凝縮したような楽曲は、バンドの未来への何よりの福音だった。
「ありがとう『メカラ ウロコ』!」――そんな吉井のコールを残してメンバーが舞台を去った後、舞台上空に現れたスクリーンに映し出されたのは「THE YELLOW MONKEY 2019.12.28」、そして「30」の文字だった。2019年12月28日(土)には30回目の記念日を迎えるTHE YELLOW MONKEY。『9999』からいよいよ始まる「新章」が、今から楽しみで仕方がない。(高橋智樹)
終演後ブログ