●セットリスト
01.サンサーラ
02.ライムグリーン
03.1%
04.ACTRESS
05.新月とコヨーテ
06.黒うさぎ
07.ホームタウン
08.東京
09.ジャンプ
10.天国より地獄
11.台風の目の中で
12.MY HERO(アコースティックver)
13.とける
14.ハイエナ
15.Thanks
(アンコール)
01.誕生日には海へ行こう
02.世界は変えなくていい
03.奇跡の続き
5月末にリリースされた最新ミニアルバムを携えての「2nd Mini Album『新月とコヨーテ』発売記念ライブ~Thanks for not Loving me~」。lukiは、「今日が本当のリリース日のような気がしていて、人の前で演奏して初めて曲になります」と語っていた。内面の深い部分に触れる表現でありながら、それが極めて風通しの良いポップソングへと昇華されること。辛い経験もすべて引っ括めて、人生を肯定的に解き放つような、ドラマティックなステージであった。
サンスクリット語のフックがラテンポップの中で勢いよく弾ける、ユニークな新作曲“サンサーラ”からライブは始まる。サウンドプロデューサーでもある円山天使(G)の軽快なアコギのリフ、山本哲也(Key)の甘くなびくフレーズ、張替智広(Dr)のしなやかなボトムに後押しされ、lukiの歌声も力強く響いていった。終盤の、跳ねるようなブルースハープも心地よい。
新作『新月とコヨーテ』に収録された8曲が目玉となるはずの今回のステージだが、おもしろいのは新作曲を固め打ちすることなく、過去作の楽曲を挟み込む構成になっていることだ。瑞々しく豊かな“ライムグリーン”もポスト・ビートミュージック時代のアコースティックポップへと生まれ変わり、サウダーヂ感の中で仄かな愛の後味を引きずる“1%”は、“ACTRESS”で描かれる喪失感と連なっている。lukiは作品ごとに、またライブごとに表現スタイルをガラリと変えるアーティストだが、今回は新作と過去作を織り交ぜ、より大きな物語を描こうとしているのだ。
「お客さんにライブの感想を言わせているうちはまだまだ」と、より深い部分での対話を目指すluki。ここで披露される“新月とコヨーテ”は、喪失感と決着を付け、闇の中から再び満ちてゆく月齢のようなベクトルを感じさせている。コンテンポラリーなリズムを用いて情念を燃え上がらせる“黒うさぎ”では、激しいエモーションの高まりを描くギタープレイも凄まじい。
フォーキーな曲調で、故郷の思いがけない優しさに触れるドラマが描かれた“ホームタウン”では、その奥ゆかしい戸惑いをブルースハープのソロに乗せる。サンプリングコーラスを用いたドリームポップ風の“東京”は2014年作『東京物語』収録曲だが、やはりここでも物語が連鎖している。過ちや失敗と論理的に向き合う再起のナンバー“ジャンプ”から、率直なロックンロールの中で発想の転換を促す“天国より地獄”という流れもおもしろい。
そしてここでlukiは、かつて5年ほど鬱に悩まされていた期間があったことを語り出す。彼女は彼女の考えをもって自我と向き合い、現在の良好な状態に至ったそうだが、「安全な場所から抜け出そうと思ったときの曲です」と披露されたのが“台風の目の中で”だ。シンプルに響くサウンドの中、堂々たる節回しの歌声に思いを込める。そこから“MY HERO”(アコースティックver)へと至る時間は、lukiの歌声が映えるハイライトの一幕であった。
そして、ISの侵攻に立ち向かう女性部隊の姿を描いた映画『バハールの涙』について語り、そこからインスピレーションを得た“とける”。強さも優しさも気高さも覚悟も綯い交ぜになった、フェミニンな歌だ。また、今回のライブ中最もラウドな“ハイエナ”のバンドグルーヴで、残酷さとしなやかさが紙一重になった生命力を描き出してゆく。
「癒されない悲しみもあるけれど、すべてにありがとうと歌いたいです」と告げて届けられた本編最終ナンバーは、公演タイトルにも通じる“Thanks”である。生の演奏もエレクトロニックなサウンドも目一杯生き生きと躍動し、lukiはまさにすべての苦い経験に向けて《ありがとう》と歌う。楽曲が生み出された時期も、サウンドのスタイルも関係ない。命の迸りとして音楽をやっているのだという、lukiのキャリアの根底に流れているものが垣間見られたステージだ。
アンコールでは、命の瞬きを自ら祝福する“誕生日には海へ行こう”を切り出し、“世界は変えなくていい”ではフェミニンな視点から非戦・非武装のメッセージを投げかける。華やかなバンドシンフォニーによる“奇跡の続き”まで全18曲、2013年作の『パープル』以降6作のフルアルバム/ミニアルバムから楽曲が届けられ、lukiのキャリアが、またそれに触れる人々の人生そのものが、肯定されるようであった。(小池宏和)