曽我部恵一BAND @ SHIBUYA-AX

ライブ中盤、しっとりしたバラード曲“サニー”の冒頭でそれは起こった。上野智文のギターから、突然ガリガリというノイズが鳴り出す。曲を中断してやり直し、急遽トークで場をつなぐ曽我部。アンプの故障か、接触が悪いのか、なかなか復旧しない。ギターを交換してみたり、配線を変えてみたり。一瞬直ったかと思うと、またノイズに戻ったり。「バンドやってるとね、こういうことはよくあるんですよ」と、曽我部。でも僕にとっては、それは単なるトラブルというよりも、ソカバンのタフネスと、何で彼らの鳴らすロックンロールが熱くてキラキラした笑顔に満ちているものなのかを、改めて痛感させてくれる出来事だったのだ。

曽我部恵一BAND、『ハピネス!』ツアーのセミファイナル。個人的にはAXクラスの広さの会場で彼らのワンマンを観るのは初めて。でも、やっぱりフェスのときと同じように、4人は広いステージの真ん中にギュッと集まって演奏する。ときには1本のマイクをわけあってコーラスしたりもする。この日は照明も客席に向けて灯されていて、ステージ上の4人とオーディエンスが一つの輪を作ってるような感じだった。フロアも後ろまでぎっしり満員。Tシャツ姿の若いキッズも多いけれど、子供連れの人もいる。

登場すると円陣を組んで気合いを入れ、ガツーンとギターを掻き鳴らした曽我部。「キラキラしてるかい!?」。そう叫んで、序盤は熱いロックンロールを次々と連発。ドシャメシャで、荒削りで、爆発するような演奏だ。髪を短髪にして白いTシャツにジーンズ姿の曽我部は、先日の8月26日で38歳になったとのこと。メンバーも全員30代。まあ、おっさんである。でもたぶん、日本で一番、本気で青春の初期衝動を鳴らそうとして、本気でキラキラしようとしてる30代だと思う。それがとてつもない求心力のパワーを呼んで、フロアとの一体感を生み出している。

ただし。やっぱり中盤はトラブルのせいで、ハラハラする場面も少なくはなかった。少々音が悪かったり、トチったり、歌詞を飛ばしたり、そんなことではソカバンのライブの魅力は揺らぎもしない。でも、ステージ上で誰か一人でも首をかしげていると、それは途端に魔法の輝きを失ってしまう感じがする。アスリートが靴に小石が入ったことを気にしながら全力疾走できないのと同じだ。上野はアンプの不調にはその後何曲かでも手こずってた。正直、一体感の輪がほどけかけたんじゃないかと思う瞬間もあった。それでも、ソカバンはやはり百戦錬磨のライブバンドだった。なんとか応急処置的に復旧したステージセットとともに、100%以上のパワーを音楽に注ぎ込むことで、生まれかけた不安な空気を吹き飛ばす。“テレフォンラブ”ではフロア中のコーラスが巻き起こり、お客さんもそれを支える。

何度もソカバンのライブは観てきたけれど、この日終盤の曽我部はいつにないほど必死の形相だった。MCでは声もガラガラで、息をつきながら話していた。でも、だからこそかもしれないが、この日の“永い夜”や“青春狂走曲”には、とんでもない熱量の気迫がこもっていた。曽我部はギターを投げ捨て、マイクを握りしめ、フロアに飛び込み、身体中の力を振り絞るように歌う。“魔法のバスに乗って”も、すごく感動的だった。ソカバンのライブはいつもキラキラした幸福感に満ちているけれど、それは決して予定調和的なものでも、誰かから与えられたものでもない。彼らの全身全霊のエネルギーと、それに呼応するお客さん一人一人の思いから、その場所に立ち上がってくるものなのだ。

アンコールは、マイクを使わずに歌った“mellow mind”。曽我部は何度も「ありがとう!」「また会おうね」と繰り返していた。本心だったと思う。(柴那典)
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