出世作となった2ndアルバム『Los Angeles』から2年、新作『コズモグランマ(Cosmogramma)』を<WARP>レーベルから4月にリリースしたフライング・ロータス。このタイトルは彼の造語だが、「gramma(r)」は語学で言うところの「文法」つまり基本的な原則のことだから、『Cosmogramma』は「宇宙の摂理」といったほどの意味になるだろうか。彼が同じ4月に行われたトム・ヨークの新バンド「アトムズ・フォー・ピース」のUSツアー8公演でオープニング・アクトを務めたことも話題になった。
昨年11月に幕張メッセで開催された「electraglide presents Warp20」以来の来日となる今回のクラブ・ツアー「FLYING LOTUS presents BRAINFEEDER」はフライング・ロータスにとって日本では初となるヘッドライナー・イベントで、ツアー名にもなっている自身のレーベル<BRAINFEEDER>から、サムアイヤム(Samiyam)とザ・ガスランプ・キラー(The Gaslamp Killer)の2人を引き連れている。東京公演でのゲストDJはO.N.O、QUARTA 330、DJ DUCT MONKEY_SEQUENCE.19の4人。イベントは明日と明後日、大阪と金沢でも開催される。
フライング・ロータスとはFLYamSAMというユニットも結成しているサムアイヤムが比較的スローなビートにロー・ビットでオリエンタルなトラックを乗せ、自分でも時折ラップを挟み込みながらリラックスしたムードを醸し出していったのとは対照的に、ガスランプ・キラーは不規則なリズムを多用しながら1つ1つのサウンドに特有のクセのある、重厚なセットを披露する。
フライング・ロータスはガスランプ・キラーのセットの冒頭で一度姿を現し、たっぷりとエコーをかけたレディオヘッドの“ユー・アンド・フーズ・アーミー?”を流す。フライング・ロータスの大叔母がジョン・コルトレーンの妻で2007年に亡くなったジャズ・ピアニスト/ハーピストのアリス・コルトレーンであることは有名な話だが、アリス・コルトレーンが『キッドA』『アムニージアック』期のレディオヘッドに影響を与えたと言われていること、フライング・ロータスがトム・ヨークの熱烈なファンであること、そしてそのトム・ヨークが『コズモグランマ』の“…And The World Laughs With You”にボーカルとして参加していることは興味深いつながりだと思う。
どちらかといえば自分の作品は家でヘッドフォンをして聴いてもらうように作られていて、ライブは「襲撃(assault)」のようなもの、と語っているフライング・ロータスは、今夜もあまり自分の曲にはこだわらず、ビート感の強い他人の曲(マッドリブ扮するカジモトのラップも聴こえた)のあいだに“Mmmhmm”や“Recoiled”などの曲の一部を控えめに組み込んでいく。だがその度にぎっしりと埋まったフロアからは大きな歓声が上がり、フライング・ロータスも白い歯をみせて笑いながら楽しそうにプレイしていった。ゲスト・ベーシストのサンダーキャットの影響もあって前作よりもよく動くようになった低音部、それにつられるようにしてほんの少し上がったテンポ、新たに導入されたストリングスの音色が「宇宙の摂理」の多様な局面を次々に展開する。
『コズモグランマ』の音楽はアリス・コルトレーンの音楽と――例えば1970年の代表作『Journey in Satchidananda』と――よく似ている。それは活動後期にインドやアフリカの宗教思想に傾倒したジョン・コルトレーンの遺志を継ぐようにしてサティヤ・サイババに私淑し、ヒンドゥー教名も得たアリス・コルトレーンの神秘主義をフライング・ロータスが受け継いでいるからなのかもしれない(そもそもロータス=蓮は仏教だけでなくヒンドゥー教とも深い関わりがある植物)。もちろん表面上は、アリス・コルトレーンはハープやタンブーラや儀式用の鈴をジャズのフォーマットで使用し、1983年生まれのフライング・ロータスはJ・ディラやマッドリブの新しいヒップホップ、エイフェックス・ツインやオウテカらによるIDM、ニンテンドーの8ビット・ミュージックを通過しているという違いがあるわけだけれど。
「叔母さんはジョン・コルトレーンを失ったことにひどく動揺したし、彼女の音楽からはそれが聴こえてくる……俺にも自分の音楽で同じことができるってことを確かめたかった。このレコードでは内面への旅をしなければならないと気づいたんだ」「これまでの人生のどの時点よりも過去2年間に彼女から影響を受けた」「このアルバムは母親に捧げられているんだ」という別々のインタビューでの彼の発言を寄せ集め、彼の母親のタミー・エリソンが2年前の2008年に亡くなっていることを考え合わせると、フライング・ロータスがありったけのビートとテクスチャーを駆使して「摂理」の在りようを描き出し、内面へと旅しなければならなかった理由を知るような思いがする。
「サンキュー、トーキョー! あと2曲やるよ」と言ってから、彼が今夜唯一『コズモグランマ』からフルで回したのは“Do The Astral
Plane”。フロア上で交錯する光と闇の奥に、「霊界を見て回る」という意味のタイトルが付けられたこの曲の中で彼が見つけようとしているものを少しだけ垣間見たような気がした。(高久聡明)
フライング・ロータス @ 西麻布eleven
2010.05.29