くるり @ 新木場スタジオコースト

くるり @ 新木場スタジオコースト - pics by 久保憲司pics by 久保憲司
5人編成で初のツアーとなる『くるりワンマンライブツアー2011〜湯気湯気帝国〜』のファイナル。約1ヶ月間のツアーとなっていたが、新木場スタジオコースト2デイズの前には初のソウルや上海でのライヴを行い、また8年間の歴史に幕を下ろすこととなった『みやこ音楽祭 ’11』にも出演。歩んできた道程とツアーの成果、そして新しいトライアルが幾重にも交差する、とても濃密で、かつ風通しの良いステージであった。

ファンファン(Tp./Key./Vo.)、吉田省念(G./Vo.)、田中佑司(Dr./Perc.)、佐藤征史(B./Vo.)、そして岸田繁(Vo./G.)が登場。岸田は夏に見たときにもボサボサに撥ねるヘア・スタイルをしていたけれど、その髪が伸びても同じように撥ねさせているので、登場するなりオーディエンスの笑いを誘っている。サリーちゃんのパパかサイヤ人みたいだな。喩えが古くてすみません。オープニング・ナンバーの“LV30”から、さっそくそれと分かるこなれたアンサンブルを軽々と披露してくれる。カラフルなサウンドと地に足の着いたグルーヴ、そして広がりながらたなびくコーラス・ワークに、心が踊らされるようだ。

くるり @ 新木場スタジオコースト
岸田の確信のリフに吉田の玄妙なギター・フレーズが纏わり付く、「LVシリーズ」連打の“LV45”。ファンキーな“コンバット・ダンス”では、ファンファンのトランペットが映える。一見、淡々とプレイしているように見えるけれども、新メンバーの活躍は楽曲を分厚く派手に飾り立てるのではなくて、楽曲本来の印象を損なわず根本的に織り直す、といった高度なアレンジで描き出されている。オーディエンスとして予め期待していたものは確かにそれなのだが、実際に触れてみるとなると溜め息が漏れるような素晴らしい演奏である。

「おこんばんは、くるりです」。京訛りが心地よい、岸田の挨拶だ。「新木場はどうですか。遠いですか。都内随一の郊外型ターミナル駅・新木場、ね。そうですよ。昔は何もなかったんでしょうね。材木が置いてあったから木場ね。埋立て地ですからね」。さとちゃんも絡んで、ズルズルと空気が緩んでゆくのが分かる。「次はロマンチックな曲です」と自分で勝手に難易度を上げてしまった岸田にはフロアからも笑いが漏れるのだが、ここで披露されたのは先の新ベスト盤に収録されていたフォーキーな美曲“旅の途中”だ。一瞬で空気を塗り替えてしまうさまが凄い。わざと難易度を上げてから演奏したんじゃないか、という心憎さすら感じさせる一幕であった。

くるり @ 新木場スタジオコースト
と、ここでファンファンと田中が一度ステージから捌け、岸田、さとちゃん、吉田というトリオ編成にシフト。「新しい曲をやります」と一言告げて、椅子に腰掛けた岸田がアコギを奏でつつ歌い出したのは“ペンギンさん”なる新曲であった。吉田はチェロをプレイする。コミカルで可愛らしい歌詞なのだけれど、メロディが情感を増幅させるようだ。

岸田:「座るの楽やな。佐藤くん、座ってへんの?」

佐藤:「次の次の曲が、座ってやるのしっくりこなくて。残念だけど(笑)」

岸田:「そうか。そのうち座ってメタルでもやるわ。座りメタル(笑)。次はメタルちゃうけど、これも新曲です。“のぞみ1号”」

ノスタルジックな情景を呼び起こす、フォーク色が更に強いナンバー。この曲を終えたところで、タムを抱えた田中がドン、ドン、ドン、と盆太鼓ふうに打ち鳴らしながら再登場。ファンファンもトランペットを吹き鳴らして歩み出てくる。「いいですよ。このリズムね。ヤバイですね。次の曲は、サユリ・イシカワがTVで歌ってましたけど、今日は私がサユリ・イシカワになり切って! 紅白のオファーを待ちたいと思います。この前、(石巻の仮設住宅に)行ってきましたけど……まだまだですよ。まだまだです。私もまだまだです。何もしなくてもええけど、何かやった方がええんちゃいますか。皆さん、もっと言いたいこと言った方がええです」と岸田。そして披露されたのは“石巻復興節”であった。《あ、ヨイショ》と景気の良い間の手を巻いて歌われる。が、長く綴られた歌詞を、多くの人々がじっ、と聴き入っている光景も印象深い。吉田が演奏しているのは、バンジョーだろうか。ファンファンはユニゾンの、芯の強い歌声をしっかりと聴かせてくれる。

さて、メンバー紹介を経て、再び往年のくるりのキャリアを見渡すセット・リストが、この編成でプレイされ始めた。“Thank You My Girl”から、今度は吉田がその歌唱力を見せつけてくれる“さっきの女の子”へ。おもしろい。有言実行というべきなのかメタル風インスト・セッション“METAL ZONE”では、ご機嫌な岸田の、腕をクロスさせたデビル・サインも飛び出す。更にはさとちゃんのリード・ヴォーカル曲“ホームラン”が賑々しく決まる。「佐藤さんの美声に惑わされて眼鏡おとしてもうた」とは岸田の弁である。ここぞとばかりに張り切ってギターを弾きまくっているからだ。それにしてもこの編成、みんな歌唱力が高い。なんというか、さりげなく上品な高級感みたいなものを常に漂わせているのだが、それはこの面々の豊かなコーラス・ワークによるところも大きいだろう。

“ブレーメン”の後に続く、シングル曲連打のクライマックスは本当に素晴らしかった。大仰さはない。のに、そのアレンジの妙に音楽の果てしない豊かさを受け止めさせる。メンバー間のアドリブ・セッションによってフリーキーな爆発を見せる“リバー”。“METAL ZONE”も然りだが、激しくダイナミックな演奏をしようと思えばいつでも出来てしまう面々なのである。モータウン・ビートで軽快にプレイされる“BIRTHDAY”へ。モータウンと書いて思ったのだけれど、つまり今のくるりはメンバーの技術をひたすら高品質なポップ・ミュージックに落とし込むための装置なのかも知れない。アコースティック編成で披露された新曲群は、まず核となるメロディと歌を聴いてくれ、というステップだったのだろうか。フロア一面にスウェイが揺れる“ワンダーフォーゲル”から、本編ラストは夕焼けのような照明の中で披露される“東京”だ。これも、力任せにエモーションを表現するのではなくて、豊かなハーモニーに彩られた美しいパフォーマンスであった。

くるり @ 新木場スタジオコースト
「どーもー! 黒と白で、モノトーンズですー!」と、さとちゃん&吉田コンビでグッズ紹介をした後にアンコール。“奇跡”は、もうこの1曲に辿り着くためにツアーがあったんじゃないか、と思わせるほど素晴らしいものだった。「来年も会いましょう」とここで万感のフィナーレかと思いきや、ダブル・アンコールの催促に応じて喝采を浴びるくるりの面々。「来年の抱負は、腹の肉を取る。え? 総理大臣になったらどうするか? 馬鹿だからわからんけど、みんなが本音の社会になればええんじゃないですかね」と岸田は語り、最後の最後に完全燃焼の“チアノーゼ”をぶちかましてくれた。それにしてもこの5人は、これからどんな作品を生み出してくれるのだろう。そんな新たな楽しみを、強く抱かせるステージであった。(小池宏和)



セット・リスト
01:LV30
02:LV45
03:マーチ
04:コンバット・ダンス
05:窓
06:旅の途中
07:ペンギンさん(新曲)
08:のぞみ一号(新曲)
09:石巻復興節
10:Thank You My Girl
11:さっきの女の子
12:METAL ZONE
13:ホームラン
14:Bus to Finsbury
15:ブレーメン
16:リバー
17:BIRTHDAY
18:ワンダーフォーゲル
19:東京
EN1-1:ハイウェイ
EN1-2:さよならアメリカ
EN1-3:奇跡
EN2:チアノーゼ
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