ザ・ラプチャー @ 恵比寿リキッドルーム

本当に素晴らしいライヴだった。ライヴの最中、私は何度も何度もリキッドルームのフロアを、オーディエンスの足元を見てしまった。沢山の足があんなにも自由に跳ねて、力いっぱい飛んで、早急にリズムを刻む、賑やかで楽しく、そして興奮する光景を久々に目の当たりにした気がする。いわゆるロック系のライヴのノリは基本タテノリの上下運動でほぼ事足りるもので、通常ここまで多彩なオーディエンスの「足さばき」を見る機会はめったにない。時にブレイクダンスのように、阿波踊りのように、はたまたカチャーシーのように、とにかく思い思いのフリースタイルで踊りまくるオーディエンスを見て、このザ・ラプチャーが2000年代にいち早く表明したダンス・ロック、ディスコ・パンクの根底を改めて目の当たりにした気分になった。

ちなみに、デビュー・アルバム『ミラー』(1999)、エポックメイキングな『エコーズ』(2003)、そして『ピーセズ・オブ・ザ・ピープル・ウィル・ラヴ』(2006)と、ラプチャーが1990年代末から2000年代半ばにかけて3枚のオリジナル・アルバムをリリースした後、最新作『イン・ザ・グレース・オブ・ユア・ラヴ』(2011)が発表されるまでには実に5年ものインターバルがあった。そしてこのラプチャーの不在時に何が行われたかと言えば、彼らを起源とする2000年代ダンス・ロックの拡大再生産と単純化、汎用化の流れだった。それは良い面と悪い面を両方併せ持つ現象だったわけだが、この日のラプチャーのパフォーマンスを観て思ったのは、彼らのアイディアは普遍的であり、その輝きを寸分も失っていないということだった。

そんなラプチャーの東京公演初日、オープニング・アクトを務めたのはthe telephonesだ。日米ダンス・ロックの両雄が並び立ったと言っても過言ではないナイスなブッキングで、リキッドルームをばっちり盛り上げていく。この日のthe telephonesのライヴには先述の「ラプチャー以降」という概念がここ日本にも到達していたこと、そしてそれが万国共通のアクチュアリティを持つ表現であることを確認できる内容だったと言っていい。

そして8時過ぎ、ついにラプチャーが登場する。オープニングは“In The Grace Of Your Love”。最新作のスケール感、密室アングラのディスコ・パンクから一気に開放的な野に放たれたかのような新作を象徴するスターターだ。続く“Never Die Again”は4つ打ちハウスのリズムとキーボードのレイヤーで組み立てられたラプチャーらしい鉄板の新曲。この冒頭2曲でラプチャーの今と昔、5年間の不在がゆるやかにリセットされていくのを感じる。前半は新旧ナンバー織り交ぜつつもディスコ・パンクの側面を強調したまさに「踊る」セクションで、オーディエンスも彼らの意図に呼応して瞬く間にフロアの隅々までステップと手拍子が広がっていく。そんな前半のハイライトとなったのはもちろん“House Of Jealous Lovers”。この頃には会場が混然一体となって大きなゴム毬みたいにバウンドしていた。

そんな“House Of Jealous Lovers”で最初のクライマックスを迎えた後、小休止、と言うかインタールード&チルアウト的なエレクトロのセクションが始まる。キーボード2人体制、ギターとベースを置いてモノトーンなパーカッションに興じる“Olio”、そしてよりソウルフルな“Come Back To Me”と、中盤のこの2曲はかなり異彩を放っていた。そして続く“Sail Away”でチルアウト・タイムが終わり、再びリキッドルームは大ダンス・ロック・パーティへと転じていく。

新曲“Sail Away”は文字通り大海に「漕ぎだす(Sail Away)」意思を感じるビッグ・アンセムで、かつてのラプチャーにはなかったメランコリックなメロディを搭載しつつ漕ぎ進むそのスケールは、たとえばU2との連想すら生みそうなもの。ラプチャーに対してU2だなんていう形容を使う日が来るとは10年前には夢にも思わなかったけれど、最新作『イン・ザ・グレース・オブ・ユア・ラヴ』の「脱・密室」なコンセプトが凄まじく高度な次元で達成されているからこその、このU2連想なのである。

そう、この日のライヴの前半~中盤がラプチャーの根っこのディスコ・パンクの耐久性を示すものだったとしたら、“Come Back To Me”、“Sail Away”の新曲2連発以降の最終コーナーは、その上での「今」の彼らの立脚点、発展性を感じさせるものだった。途中まで足元ばっかり見て踊っていた筆者だけれど、ふと気づいて頭を上げて見渡したリキッドルームは、開演直後に比べて一回りも二回りも大きくなっているような錯覚を覚えた。そしてその錯覚したスケールが、今のラプチャーのサウンドには相応しいように思えた。そして本編ラストの“Echoes”では落雷のごときサックスに導かれ、さらに密室の殻が突き破られていく。

アンコールも含めて80分弱とコンパクトなステージだったが、終演後には茹でダコ状態のオーディエンスの熱気がいつまでも絶えることがなかった。今日は来日ツアー最終日の渋谷Duo公演。最後の祭りに参加される皆さん、思い残すことないよう、全力で踊りまくってきてください!(粉川しの)


2月28日 恵比寿リキッドルーム

In The Grace Of Your Love
Never Die Again
Pieces Of The People We Love
Get Myself Into It

The Devil
Killing
Whoo! Alright, Yeah... Uh Huh
House of Jealous Lovers
Olio
Come Back To Me
Sail Away
Echoes
(encore)
Children
Miss You

How Deep Is Your Love

No Sex For Ben
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