【JAPAN最新号】星野源が今、再び示した「ポップミュージックにできること」――ニューシングル『不思議/創造』全4曲を考察する

現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』8月号に星野源『不思議/創造』のロングレビューを掲載!

星野源が今、再び示した「ポップミュージックにできること」――ニューシングル『不思議/創造』全4曲を考察する

文=小川智宏


2018年の『POP VIRUS』からドームツアーを経て2019年の『Same Thing』へ。そして『Same Thing』から“うちで踊ろう”を経てこの『不思議/創造』へ――この2年あまりの星野源の軌跡は、そのまま日本のポップミュージックが未来を紡ぎ、時代を乗り越えていくような道のりだったのだ、とこのニューシングルを聴いてあらためて思った。同時に、星野源というアーティストの物語としても、ひとつの到達点となった『POP VIRUS』を乗り越えていくという、とても重要でシリアスなタームだったのだと。4曲収録のシングルではあるが、この4曲それぞれがもつ意味合いは限りなく大きいし、何より星野自身がそこに大きな手応えと自信を感じていることは、先月号の表紙巻頭インタビューからもしっかり伝わってきたと思う。

スーパーオーガニズムPUNPEE、トム・ミッシュという多彩なメンツとコラボレーションして生まれた『Same Thing』は、そのサウンドデザインの多様さや同時代的なシーンとのシンクロぶりとは裏腹に、というよりもそうやってモダンにブラッシュアップされた音楽だったからこそ、星野源というひとりのアーティストが立っている場所、そこから見える風景、その心境がまざまざと見えてくるような作品となった。自分は「さらしもの」であるという自己認識はもとより、《I've got something to say/To everybody, fuck you/It's been on my mind/You know I meant it with love》(みんなに言いたいんだ/Fuck youって/ずっと思ってたんだよ/心から愛を込めて)という“Same Thing (feat. Superorganism)”の基本スタンスも、ロマンチックな情景に重ねながら《Ain't nobody know/Ain't nobody watching us》(誰も知らない、誰も僕らを見ていない)と歌う“Ain't Nobody Know”も、一言で言えば目指していた山を登り切ったからこその孤独を浮き彫りにしていた。

極めつけはあのEPの最後に収められていた“私”だ。《私を見や ここに居ては/希望どもが飽きれたまま/死ぬのだけじゃ あんまりじゃないか/喉は枯れた》。尾崎放哉の「咳をしても一人」じゃないが(そういえば『逃げ恥』SPではみくりが「尿が漏れても一人」と詠んでいましたね)、そこには表現者としての拭えない寂寥が漂っていた。(以下、本誌記事に続く)

(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年8月号より抜粋)




『ROCKIN’ON JAPAN』2021年8月号