ナイン・インチ・ネイルズ新作EPのインスピレーション源を探る

ナイン・インチ・ネイルズ新作EPのインスピレーション源を探る

12月23日に、突如としてリリースされたナイン・インチ・ネイルズのニューEP『Not The Actual Events』。公式サイト上では、00年代以降のNIN作品をプロデュースし、また数々のサントラ仕事においてもトレントと作業を共にしてきたアッティカス・ロスが、正式にNINメンバーとして迎え入れられたこともアナウンスされている。

時代の流れに抗うように、敢えて以前よりも生のサウンドを強調し00年代を駆け抜けてきたNINは、2013年作『ヘジテイション・マークス』で現代型エレクトロニック・サウンドとの折り合いをつけながら最新のNINを提示し、また素晴らしいライブを繰り広げていた。新EPでは“Dear World”のようにその流れを汲む楽曲も見られるものの、一方で鋭利なポスト・パンクの手応えがプログラミングを追い越してゆくオープニング“Branches / Bones”が配置されるなど、端正でキャッチーなエレクトロニック・サウンド(或いはその時代)との和解は、決して順調には進んでいないことが明らかになる。

『Not The Actual Events』は全5曲というヴォリュームでありながら、強烈な余韻を残す救いのない物語のように進む作品だ。孤立し閉塞した風景に始まり、トレントは何かを訴える歌や叫びというよりも、閉じたマインドの中で混乱し、引き裂かれ、モノローグのように言葉を吐き出している。もはや取り返しのつかない“She’s Gone Away”から、深いディストーションの炎に塗り込められた“Burning Bright (Field on Fire)”へと至る流れは、ただ破滅へと向かう一本道だ。「必要だったのは、とっつきにくく、付け入る隙のない作品だ」と公式のコメントも寄せられている。

また、2010年の『プリティ・ヘイト・マシ-ン』リマスター&アナログ・リリースに続き、公式オンライン・ストアでは『ブロークン』、『ザ・ダウンワード・スパイラル』、『ザ・フラジャイル』(オルタネイト・テイクやインストを収めた『Fragile: Deviations 1』も)といった90年代インダストリアル作品のアナログ・シリーズも発表されており、過去作に向き合いながら「NINでしか伝えられないもの/救えないもの」を再確認するステップがあったことをうかがわせる。とりわけ、心の闇が極限まで膨れ上がった(それゆえに評価も決して高くなかった)『ザ・フラジャイル』をじっくりと整理し捉え直したことは、『Not The Actual Events』というNINの不可侵領域を描いたコンパクトかつ容赦ない作品に直結しているように思える。(小池宏和)
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