過去数年オペラ、シェイクスピア関連プロジェクトと古典&シアター寄りだったルーファスが実に8年ぶりにポップ・フィールドに戻ってきてくれた。
クラシック音楽からスタンダード、ミュージカルやサントラ、シャンソン、フォークまで溶け合うタイムレスかつ絢爛な歌の絵巻でシーンに衝撃を与えた98年のデビュー作を想起させられるジャケにピン!と来た方は正解です。ニューヨークやベルリン、ロンドンを経て久々のLA録音になる本作は彼にとって一種の回帰作であり、名手ミッチェル・フルームの指揮のもと数々の名門スタジオを舞台に(1枚目にも参加した)ジム・ケルトナーを筆頭とする、今をときめくブレイク・ミルズら一流ミュージシャン、オケやクワイアが馳せ参じた。その王道なアプローチによる音作りは言うまでもなくため息ものだし、ストイックに研ぎ澄まされたメロディ、真摯な愛情から諧謔までポエティックに綴れ織る言葉は成熟を感じさせる。と同時に、久々に堪能できる唯一無二の歌声とその優雅で若々しい伸びがまったく損なわれていないのは驚きだ。
三部構成という内容で、ランディ・ニューマン、ジョニ・ミッチェル、ブライアン・ウィルソン、レナード・コーエンら偉大なシンガー・ソングライターの先達に敬意を表しつつ自己流に咀嚼したソングライティングが冴える前半二部は「伝統と遺産の正当な後継者」ルーファスの天才を再認識させてあまりある。それが唯我独尊に陥っていないのは、フィナーレの第三部でダークな感情や弱さの「内幕」をさらす勇気が彼にあるからだ。ポジでネガで、醜かったり美しかったりするからこそ人間――そんな悟りに至った本作は彼のアーティストとしてのひとつの総決算であり、と同時に開始点になると思う。 (坂本麻里子)
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