11年前に出たデラックス・エディションでは、もともとのクアド・ミックスを元にした5.1chのサラウンド版がDVDで付属していた。それが今回は通常のCDに「ステレオで」収録。聴いてみると、確かに定位があちこち移動したりして、2チャンネルしかないなりのサラウンド感を出している。より分離された音像になっているので、各パートを細かく確認しながらマニアックな聴き方が可能だと思う。さらに今回は、アルバム発売直前のスイス公演および、リリース直後に行なわれたベルギーでのライブ音源が追加。いずれもかなり良い音質で、まだ若々しかった4人のメンバーによる溌剌とした演奏を追体験できる。前者では“ウォー・ピッグス”や“アイアン・マン”が、レコーディングされたものとは違うオリジナルの歌詞で歌われていたりするそうだ。後者に関しては映像も残ってるらしいので、いつか正式に観られることを期待。また、多くの資料写真がカラーで満載されたブックレットの長文解説も読み応え十分だ。ヘヴィ・メタルの礎となった大名盤を、これまで以上にじっくりと堪能しよう。
個人的に今回あらためて印象深く感じたのは、ベトナム戦争を意識して“ウォー・ピッグス”などに盛り込まれた社会的な要素や、“アイアン・マン”の深みのあるストーリー性など、歌詞の面でもかなり優れていたという点がまずひとつ。もうひとつは、当時のメンバー間に、いわゆるバンド・マジックが最高の状態で生じていたこと。全体の尺が足りないため急遽その場で作り、2時間で録音を済ませたというタイトル曲は、ほとんどパンクと言ってもいいシンプルなナンバーだが、そんなふうにして出来た曲がシングル・カットされ、アルバムを全英1位に導くキラー・チューンとなった事実が、そのことを何より象徴している。 (鈴木喜之)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
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