活動の存続そのものが危ぶまれていたAC/DCの不屈の逆襲アルバムで、とりあえず現時点では、楽曲、サウンド両面で、以前とまったく遜色ないことを感動的なまでに証明する作品となっている。バンドの新作リリースの間隔は近年に入ってどうしても長くなってしまっているが、今回の『パワーアップ』は14年の前作『ロック・オア・バスト』から6年経っていて、その『ロック・オア・バスト』が『悪魔の氷』から同じく6年かかったことを考えると、実はもうペースとしてはしっかり安定してきているとさえいえるのだ。
危機はギターのマルコム・ヤングが認知症のため『ロック・オア・バスト』の制作から離脱したことに始まっていた。実はマルコムはリズム・ギタリストとしてAC/DCの楽曲の数々のリフを生み出した本人で、AC/DCとはリフに始まりリフに終わるバンドであるため、これは間違いなく彼らにとって最大の危機的状況だった。しかし、創作面はアンガスらで担いながら、マルコムとアンガスの甥のスティーヴィーが新ギタリストとしてバンドに加入。08年の『悪魔の氷』でプロデューサーのブレンダン・オブライエンと打ち立てた、徹頭徹尾バンドの強味のみを打ち出すアプローチにこだわり、この危機を跳ね飛ばしてみせた。
だが、リリース直前にドラムのフィル・ラッドが違法薬物問題で逮捕されて離脱し、さらにボーカルのブライアン・ジョンソンまで聴覚不調のため離脱を余儀なくされ、ツアー終了後は、果たしてこのままAC/DCはバンドとして存続していけるのかと、当然誰もが疑問
に思うところとなった。
しかし、17年にマルコムが他界して、その翌年、フィルもブライアンも合流して録音が進んでいるという観測が伝えられ、遂に正体を明らかにしたのがこの新作だ。16年のツアー終了後、いったん引退したベースのクリフ・ウィリアムズも復帰したが、それはこのアルバムがマルコムの弔いのためのもので、アンガスも語っている通り、ボン・スコットに捧げられた80年の傑作『バック・イン・ブラック』と同様の作品となったからだ。楽曲はアンガスがマルコムの遺した音源を隈なく吟味して選び、今回も全曲マルコムとアンガスによるものになっている。特に冒頭の3曲のあまりにもソリッドなリフとグルーヴは圧巻で、ブライアンのボーカルの乗り方もすさまじい。ここ2枚でどこまでもテンションを上げてきたが本作はゆうにそれを超えた、間違いなく傑作。全曲冴えまくったリフが鳴りわたる、何度目かのバンドのピークだ。(高見展)
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