3人の絆が切り開いた、back numberの見果てぬ新次元。新作AL『ユーモア』&弾き語りCD『依与吏の部屋』徹底レビュー

back number『ユーモア』
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ALBUM
back number ユーモア

『ユーモア』

“怪盗”“アイラブユー”“黄色”“エメラルド”“ベルベットの詩”といったシングル曲や、YouTube総再生回数1億7000万回超を記録した“水平線”、さらに“秘密のキス”や“ゴールデンアワー”“添い寝チャンスは突然に”といった新曲群に至るまで、どこを聴いてもback numberそのものの名盤である。同時に、前作『MAGIC』をはじめ過去作品とは決定的に異なる手触りを持った作品でもある。その相違をひと言で言えば、「back numberが世の『back number像』すらも真っ向から受け止めたうえで、その期待値を凌駕してみせた」という点だ。
 
数多くのタイアップ曲を手掛け、シーンの表舞台でその歌とサウンドを響かせてきたback numberはある意味、最も時代と共鳴し時代を象徴する「みんなのうた」でもあった。その一方で、「back numberはこういうバンドだ」という固定観念やカテゴライズに対しては一貫して背を向け、ロックバンドとしての反骨心をも胸にたぎらせ続けてきた。根底の部分で常に相手の幸せを切望する詞世界や、清水依与吏の歌にフォーカスした耳馴染みのいいミックスの質感とは裏腹に、そのギターサウンドやリズムセクションはいつだって制御不能なロックの熱量に満ちているのも、その「わかってほしい」と「そう簡単にわかってほしくない」の二律背反状態を明快に象徴しているし、ラブソングもロックナンバーもスリリングに共存するback numberの音楽世界の強力な熱源になってきたことは間違いない。“HAPPY BIRTHDAY”から“大不正解”に至る『MAGIC』のエンディング2曲は、その二項対立が最大限にブーストされた瞬間でもあった。そんなバンドのモードに、名バラード“水平線”の誕生が大きな変化を与えたことは想像に難くない。

2020年、コロナ禍によるインターハイ中止を嘆く高校生からの切実な言葉――他ならぬback numberの歌の訴求力そのものをまっすぐに求める想いに対して清水依与吏は、ロックバンドとしての衝動ともソングライターとしての作家性とも一線を画した、抗い難い黙示録のような透徹した筆致で、自分たちも含めた「今」を俯瞰して精緻に描ききってみせた。余計な音も言葉も何ひとつ配置されていない――むしろ「鳴ってはいけないもの」に対して恐ろしいほどの集中力を要したと思われる――高純度なサウンドスケープは紛れもなく、その音楽が作用する対象=「あなた」に向けられたエモーションの純度を如実に物語るものだ。

たとえば、同じ「青春」というイメージでも、青春真っ只中の10代の少年少女が描く不器用で焦燥まみれでこんがらがった「青春像」と、青春時代を過ぎた世代がある種の憧憬とともに振り返る「青春像」とでは、その温度感はまるで違ったものになる。それと同様に、1曲ごとに切磋琢磨と試行錯誤を繰り返し、薄氷を踏む思いで言葉と旋律を紡ぎ歩を進めるメンバーと、その楽曲を完成形として受け取るリスナー/オーディエンスとの間で、「バンド像」に乖離が生じるのは避け難いし、時にはその齟齬まで含めて「その先」へ突き進む爆発力に変えていくのがロックバンドの宿命でもある。

しかし。今作『ユーモア』の12曲が織り成すのはまさに、メンバーと聴き手の抱く「back number像」のベクトルを両者とも力強く誘引する、包容力に満ちた音楽の磁場だ。何かに抗う必要も、誰かの思惑を裏切ったりする必要もない。清水依与吏が詞曲を書き、小島和也&栗原寿とのアンサンブルを通して鳴らしていくこと、それ自体がback numberの核心である――という事実を、バンドも僕らも揺るぎなく感じることができる、根源的であり画期的な作品である、ということだ。《駆け抜けてるのさ/疑うのも迷うのもやめて/檻の端のゴールまで》(“ゴールデンアワー”)、《青くさい/なんて青くさい/綺麗事だって言われても/いいんだ 夢見る空は/いつだって青一色でいい》(“ベルベットの詩”)と魂のリミッターを解放した先に弾ける躍動感。いつになく事細かに描き込まれた猫/パン屋/踏切といった「僕」の飾らない風景のすべてが《ああ 君に会いたくなる》と募る恋心へのトリガーとして機能している“アイラブユー”……。心震わすダイナミックなスケール感においても、心の機微を活写する歌の解像度においても、目覚ましいほどの進化を体現してみせた新作『ユーモア』。聴き手を信じ、自分たちを信じた先に、back numberという音楽の無限の可能性が広がっていた――とでも形容すべきマジカルな輝きが、今作には確かに宿っている。

「あなたの人生が特別だったんだっていうことを、俺らがきちんと証明してみせる」……2022年の全国ツアー「SCENT OF HUMOR TOUR 2022」最終公演で清水が語っていたMCの言葉は、かつてないほどの決意と使命感に裏打ちされたものだった。彼らの中で「音楽の意味」が幾重にもアップデートされていることを、今作はどこまでも伸びやかに証明している。

『依与吏の部屋』

かつて『淡麗グリーンラベル』のCMで、清水依与吏がアコギ弾き語りで“ヒロイン”と“高嶺の花子さん”を歌っているのを観た時、一抹の驚きを禁じ得なかったのを覚えている。バンドの全詞曲を手掛けるボーカリストが、自作の楽曲を弾き語りで披露するのは、世間一般のイメージからすれば至って自然なことだろう。が、自分でも無意識の内に、back numberの楽曲に「バンドの必然」を見出していた――ということだと思う。「パーソナルな想いを重ねたパーソナルな楽曲をバンドアレンジへと育てていく」のではなく、バンドで鳴ることを前提として、バンドの音を夢想して生まれたからこその、ロックソングとしての一体感。CMの陽だまりの風景の中で響く弾き語りの音像が、温和さと裏腹に「ひとりで鳴る緊迫感」をも備えていたように感じたのは僕だけではないと思う。

「初回限定盤A/B」および「通常盤」の計3形態で発売されるニューアルバム『ユーモア』。「初回限定盤A」には「SCENT OF HUMOR TOUR 2022」ファイナルのライブ映像&ドキュメンタリー映像が同梱される一方、ミュージックビデオ集のDVD/BDがパッケージされた「初回限定盤B」に、アルバム本編とは別CDで収録されているのは、その名も『清水依与吏 弾き語りCD “依与吏の部屋”』。“ヒロイン”“花束”“ハッピーエンド”“手紙”“クリスマスソング”“西藤公園”“チェックのワンピース”の7曲が、文字通り清水のアコギ弾き語りのみのシンプルなアレンジによって収録されている。これまでは弾き語りの演奏の機会こそあったものの、それが音源としてリリースされることはなく、今回が初のCD作品化となる。

前述の“ヒロイン”は、小林武史のプロデュースによるバンドアレンジを(あの印象的なイントロも含め)弾き語りで再現したCMバージョンではなく、イントロから全編にわたって研ぎ澄まされたアレンジで『依与吏の部屋』に収録されている。そのことからも、今回のアコギアレンジに際しては、バンドとはまったく別の回路を通して、自らの楽曲に対する検証と再構築が成されていることが窺える。“チェックのワンピース”のようにもともとアコギ基調の楽曲もあるが、同じバラード曲でも“ハッピーエンド”や“クリスマスソング”のように、バンドのタフなリズムのスケール感が重要な鍵を握っている楽曲に関しては、そういった「小島和也&栗原寿のリズムの不在」そのものが新たなドラマ性として織り込まれているようにも思えてくる。

ご存知の通り、back numberのすべての楽曲は清水依与吏の手によるものだ。しかし、バンドの演奏を通してその楽曲が躍動感と肉体性を獲得しているという意味において、清水の楽曲とback numberというバンドは切っても切れない関係にある。

オルタナ的な焦燥感が、アコギの音色によって渇いたメランコリアへと塗り替えられた“西藤公園”。アルペジオを基本とした抑えた演奏の中で《愛されている事に/ちゃんと気付いている事/いつか歌にしよう》というフレーズにぐっとフォーカスを合わせた“手紙”。エレキギターのドライブ感を雄大なリズムと融け合わせた、島田昌典プロデュースによる原曲の音像とは対象的に、《僕は何回だって何十回だって/君と抱き合って手を繋いでキスをして》と歌うに至る心の不安な震えを鮮明化したような“花束”の虚飾なき響き……。

清水依与吏という表現者が紡ぎ出す極上の「素材」を、アコギの演奏のみというシンプルな音場の中で高密度で凝縮させた『依与吏の部屋』は、それだけでも十分すぎるほどの輝度と深度を備えてはいるが、それは楽曲の「原風景」の発展形であり、決してback numberの「完成品」ではない。ただ、バンドサウンドの奥底にある個人の非武装の想いを、弾き語り作品という形で露わにできるだけの強さを、今の清水は確かに備えている――という清水とバンドの現在地を、この弾き語りCDはくっきりと浮き彫りにしている。逆に言えば、楽曲に不朽の息吹を与えてくれる小島&栗原への信頼感がなければ、清水もここまでバンドサウンドを「脱ぐ」ことも、楽曲の無防備な姿を音源として披露することもできなかったはずだ。

単独で活動するクリエイターが次々に登場しその才気を発揮する2020年代という時代においてしかし、清水依与吏は「詞曲を書いて歌うソロアーティスト」としてではなく、小島和也&栗原寿というメンバーとともに歌い、同じ舞台に立ち続けている。そして、清水の歌によって小島&栗原が生かされているだけでなく、小島&栗原の演奏によって清水の歌も生かされ、そのすべてがback numberという音楽空間の糧となっていく――。新作『ユーモア』とこの『依与吏の部屋』をあわせて聴くことで、清水の歌の核心に宿る強さと、15年以上にわたって同じ時を刻んできた3人の絆が、より一層リアルに胸に迫ってくることと思う。(高橋智樹)

(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年2月号より)

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