あの日の少年は進み続ける

マイ・ケミカル・ロマンス『デンジャー・デイズ』
2010年11月24日発売
ALBUM
マイ・ケミカル・ロマンス デンジャー・デイズ
ファースト・シングル“ナナナ”のビデオクリップがそのものずばりだったけれど、ジェラルド・ウェイという人は、ヒーローへの憧れをいまだ傷つけることなく大事に抱えている人なのだと思う。戦隊モノごっこをやるときは迷わずレッドに手を挙げるような天真爛漫なフロントマン気質。誰もがヒーローになれるわけではない現実を前に、ドンキホーテになるのを恐れて、自分も含めた多くの人がいつの間にか捨ててしまう、そうした願望を彼は諦めることがなかった。学芸会でピーターパンとして歌ったのがシンガーの始まりだと語る彼は、自分の中の無垢なる少年をずっと護り通してきた。

前作『ザ・ブラック・パレード』から4年ぶりとなる新作を聴き終えて感じたのは、ロックを救いたいし、なによりも自分がロックに救われたい、そんな想いである。生々しくてストレートで、剥き出しのロックンロールを、今この時代にマイ・ケミカル・ロマンスとして取り戻すことができないか。ある意味、誇大妄想とも言えるこの目標に向かうのは、だいぶ骨の折れる作業だったのではないか。実際、アルバム1枚をスクラップにしたわけだが、それでむしろ吹っ切れたのだろう。恐れずに徹底的に猥雑にやってみせること。だから、『ザ・ブラック・パレード』の荘厳な世界を期待する人は驚くかもしれない。シンセが大胆に導入された曲もあれば、ド直球なガレージ・ナンバーもある。けれど、この果敢なる冒険に挑むことができるのがマイケミであり、それが彼らをロックへと向かわせている。(古川琢也)
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