ボーズ・オブ・カナダの音楽史

ボーズ・オブ・カナダ『トゥモローズ・ハーヴェスト』
2013年06月05日発売
ALBUM
ボーズ・オブ・カナダ トゥモローズ・ハーヴェスト
アルバムとしては8年ぶり。約1時間の作品を聴き終えて、以前と特に大きな変化を感じるようなところはなかった。強いていえば、所謂ダンス・ミュージック的なリズムはさらに後退、シネマティックな構成とも相まってサウンド・テクスチャーはよりオブスキュアな色彩を増した。むしろ作品を聴きながら去来したのは、この8年の間にここから拡散したエレクトロニック・ミュージックの行方について。ボーズ・オブ・カナダにおいて「ノスタルジー」は重要なキーワードだが、それこそチルウェイヴからアンビエント〜モダン・ドローンの最深部まで広がる潮流の起点にして再帰点として、本作が体験させる音楽的記憶は豊かで示唆的だ。また同時に本作は、彼ら自身の記憶を反芻するように、これまでの約20年に及ぶ音楽的歩みを総覧的に映し出す。その光景は、たとえば映画『惑星ソラリス』に登場するプラズマの海を連想させた。3つのディケイドを跨りうねる、いわばエレクトロニック・ミュージックの集合的無意識を具現化した堆積。そして「明日の収穫」と名づけられたタイトルは何を物語るのか。寡黙にして雄弁であり、想像を掻き立ててやまない。(天井潤之介)
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