昨年のサマーソニック以来、そしてソロでは初めてとなる、ブレット・アンダーソンの来日公演。ご存知、元スウェードのあの方である。ソロ2作目となる『ウィルダネス』を引っさげてのツアーだが、この『ウィルダネス』というアルバム、かなり変化球というか(もちろん彼のなかではスジが通っているのだろうが)、往年からのファンが何の前情報もなく聴いたら面食らうような作品である。ストリングスとピアノだけで作った、奥ゆかしくストイックな音楽。優しく、儚く、柔らかいアコースティック・アルバムなのだ。
そういうわけなので、今回のライブもそれに忠実なものになった。ステージにセッティングされているのは、グランドピアノと、スツールと、チェロだけ。弦楽のSEからして、ここはオーチャードホールか、と勘違いしそうな雰囲気である。あるいは、どこぞのホテルのディナー・ショーみたいでもある。そして、時間ちょうどに登場したのはブレットと女性チェリスト。たった2人だけで、この夜の音楽は紡がれていったのだ。
ライブは2部構成で、第1部が『ウィルダネス』を中心にソロ曲だけで構成したセット、そして第2部がスウェード・ナンバーてんこ盛りのサービス・セット。当然前と後では観客のノリも違うし、面白いことにはブレット自身のノリも違うように見えた。『ウィルダネス』はかなりかっちりとした世界観(そしてそれは当然、スウェードのものとは違う)のもとに作られたドラマティックでシアトリカルな作品なので、ライブでそれを演奏するブレットもその歌の世界に入り込んでいくような印象があったのだが、“ヨーロッパ・イズ・アワ・プレイグラウンド”から始まった第2部では、より外向きに、観客との交歓を積極的に求めるような姿勢が感じ取れたのだ。声はシャウトに近いような激しさで、アクションも派手になっていた。いっぽう、観客もそれに応じて、神妙に聴き入っていた第1部から、手拍子や歓声が自然と湧き起こる第2部へと、リアクションを変化させていく。
とはいえ、もちろんスウェード時代の楽曲も『ウィルダネス』仕様になっていて、さらにブレットが思いっきり節回しをアレンジして歌うものだから、雰囲気としてはオリジナルとはかなり違うものになっている。「シンガロング!」と言われても、戸惑いが先に立ってなかなか歌えない感じなのだ。それでも、ブレットの声でスウェードの曲が歌われるとそれはまぎれもなく「あの歌」だし、“バイ・ザ・シー”なんてファンはたまらないものがあっただろう。
アンコールでは“ソー・ヤング”と“トラッシュ”、と名曲を2連発。ここで終わるはずだったのだが、さらに「今夜は特別だよ」なんて言ってジャカジャカと“エヴリシング・ウィル・フロウ”を弾き出すあたり、相変わらずの伊達男であった。(小川智宏)
ブレット・アンダーソン @ SHIBUYA-AX
2008.12.09