アデル、史上最長ツアーの超レア「ラスト・ライブ」を完全レポート!@ Wembley Stadium

アデル、史上最長ツアーの超レア「ラスト・ライブ」を完全レポート!@ Wembley Stadium

アデルのキャリア史上最長となる、15ヵ月間にもわたるツアーのフィナーレを飾る4日間。最終地に彼女が選んだ場所は故郷のロンドンであった。私が見たのはその「2日目」、となるはずだった公演である。事実上これが、奇しくも「最終日」となってしまった。というのも、声帯を痛めたことにより、残りあと2公演分がキャンセルになってしまったからだ。

思い返してみれば確かに、曲の合間に頻繁に咳をするなどの様子はあった。もともと「ツアーに向いてない」という彼女が、ヨーロッパ、アメリカを経て、オーストラリアとニュージーランドまでカバーした、かつてないほど意欲的な今回のツアー。本人は「口パクしてやっちゃうことさえ考えた」とコメントしており、最後まで完遂できなかったことにとても落胆しているようだ。

「最終日」となったウェンブリー・スタジアムは超満員。9万8千人という過去最高の動員数を記録した初日の客入りと同規模だったという。8時をすぎて間もなく、“Hello”のイントロとともにアデルが登場。歌声が高音パートに近づくにつれ、思わず鳥肌が立った。こんなにも凄いとは。歌唱力がレコードそのまま、いやそれ以上で、目の前で本人が歌っているとにわかには信じがたいのだ。

ずば抜けた歌唱力をもつアデルだが、そんなディーバ然としたイメージとは対照的に、あけすけな物言いをするのも大きな魅力だ。この日も初っ端から「元カレについてグチたれる2時間よ。準備できてる〜?」と自虐からスタート。他にも、ツアーから戻ってきたらドレスがキツくなっていた話や、メイクに2時間かかる話、最近ハマっているポンポン作り、など、ここは酒の席か?!と思わせるような庶民的すぎるトークで観客の笑いと親近感を誘っていた。

London / Wembley Stadium / Jun 29

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ちなみに彼女、よく英国では「Potty-mouth(トイレの口=下品な物言い)」とも形容されるほど、スウェア・ワード(罵倒語)まみれの話し方をする。先日開催されたグラストンベリー・フェスティバルでは、同フェスでの罵倒語発言回数の記録保持者であるアデルを破るべく、フー・ファイターズのデイヴ・グロールが「ファック」を連発。しかし、アデルは先のウェンブリー初日公演で自身の持つグラストの記録を意図せず軽々と更新していた。デイブも真っ青、天性のお下品ぶりである。

最新作『25』のツアーであったとはいえ、セットリストは『21』からの曲が多め。序盤では特に、ソウルフルでブルージーな“One And Only”や“I’ll Be Waiting” 、怒りをそのままぶつけるような爆発力のある“Rumour Has It”など後者の収録曲が際立って良かったように感じる。実際、“Water Under The Bridge”や” Send My Love (To Your New Lover)”といった、バックトラックの効いた『25』からの曲は、スタジアム級の会場ではサウンド間のバランス調整が難しいためか、ボーカルが聞こえづらい箇所が一部あり、残念であった。

今回のツアーのために撮り下ろされた映像を使っていたのも印象的だった。“Skyfall”では、真紅のドレスをまとった彼女が水中でゆらめく様子がスローモーションで投影、目を奪われる美しさだった(本人曰く、「長時間水の中にいて死ぬかと思った」とのことらしい
が)。

London / Wembley Stadium / Jun 29

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ロンドンへの愛を歌った“Hometown Glory”では、先日テロが起こったウエストミンスターや、大規模な火災に見舞われたグレンフェル・タワーの無残な姿が映し出される。この大規模火災に際し、アデルはかねてより現地にボランティアへ赴くとともに、ショー開始前にはビデオで寄付を呼びかけてもいた。

ボブ・ディランのカバー“Make You Feel My Love”もその被害者たちに捧げられた。「これが終わったらまた月曜から(ボランティアに)行くのよ」とアデルはMCで語る。彼女の呼びかけで観客が掲げた携帯電話が、何万ものトーチライトとなって揺らめき、優しく会場を照らした。お下品な言葉遣い、オープンすぎるほどオープンな性格という彼女の庶民的なキャラクターに加え、そんな真面目な一面もあるからこそ、皆は彼女のことを愛してやまないのだ。

ライブ後半の感情表現はひときわ素晴らしかった。”Chasing Pavements”でのオーケストラとの響きあいもさることながら、特に、ピアノの伴奏のみに合わせて失恋でボロボロになった心を痛々しいほどさらけだす”Take It All”は、彼女のいうところの単なる「グチたれ」以上、魂のこもったゴスペルそのもので、間違いなく今夜のハイライトであった。

London / Wembley Stadium / Jun 29

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本編最後を飾ったのは、紙吹雪と花火に彩られたド派手な”Set Fire To the Rain”。アンコールのうち、『25』からの個人的ベスト”When We Were Young”では、アデルの幼い頃から青春時代にかけてのプライベートな写真が次々に映し出され、オーディエンスは彼女の詞の世界に散りばめられた感情を視覚的にも分かち合った。

「本当にどうしようもなかった時に、人生を変えてくれた曲なのよ」と紹介し演奏された”Someone Like You”は会場が揺れるような大合唱を巻き起こし、ライブは終了。観客が感傷に浸る中、本人はいつのまにか会場内に配置されていたブラック・キャブに乗って満面の笑みで退場!最後まで喜怒哀楽のジェットコースターが続く、彼女らしい演出であった。

彼女は、「今後ツアーをしないかもしれない」と語っている。しかし、同じようなことを言っていた2011年を経て、今、こうして目の前にまた彼女が立っているのだから、これが最後ではないのだと信じたい。中止となってしまった2公演の悔しさをバネにして、また帰ってきてほしいと思う。(古川典子)
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