After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ

After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ - All photo by 小松陽祐(ODD JOB)、加藤千絵、小境勝巳、坂口正光All photo by 小松陽祐(ODD JOB)、加藤千絵、小境勝巳、坂口正光
●セットリスト
1. マリンスノーの花束を
2. セカイシックに少年少女
3. 解読不能
4. 盲目少女とグリザイユ
5. メリーバッドエンド
6. ECHO
-AtR Band Session 「七夜月-ナナヨヅキ-」-
7. 林檎花火とソーダの海
8. 夢のまた夢
9. 天宿り
10. 夏祭り -Arrange ver-
11. わすれられんぼ
12. 彗星列車のベルが鳴る
13. 妖のマーチ
14. 朧月
-AtR Band Session 「皐月雨-サツキアメ-」-
15. アンチクロックワイズ
16. アイスリープウェル
17. 夕立ち
18. 桜花ニ月夜ト袖シグレ
19. 四季折々に揺蕩いて
20. 彷徨う僕らの世界紀行
(アンコール)
EN1. 脱法ロック
EN2. ロキ
EN3. すーぱーぬこになりたい


After the Rainがさいたまスーパーアリーナで2デイズ公演をやると知った時、何も不思議に思わなかった。むしろ、「まだやってなかった?」と思った。それくらい、彼らの規模感は巨大なものになっていた。
そらるというシンガーと、まふまふというマルチクリエイター。テレビにこそ出ないが、ふたりのTwitterのフォロワーを合わせると270万以上、投稿する動画の再生数はダントツ、「歌い手」というジャンルでもトップクラスの人気を誇る。そんなふたりのユニット・After the Rainが、さいたまスーパーアリーナ2デイズ公演をする、というのは、全く違和感のないことだと思った。
しかし、彼らは口を揃えて言っていた。「このステージは、夢の舞台だった」と――。

After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ

「雨乞いの宴 / 晴乞いの宴」と題された今回の公演。初日、「雨乞いの宴」は、台風前のまさに雨が降りそうな天気のもと開催された。

まるで夏祭り会場を思わせる豪華な櫓のようなステージが、さいたまスーパーアリーナという大きな会場にそびえ立つ。ステージの両脇には赤い橋がかかっていたり、スタンド席の前には提灯があしらわれていたりと、神社のお祭りに来たような気分になる。会場BGMは、雨音。「雨乞いの宴」にぴったりだ。

暗転し、ステージ上に設置されたスクリーンには、海やマリンスノーのイラスト映像が流れ、そらるとまふまふの可愛いイラストとともにふたりの紹介が。
そして待ちに待ったふたりの登場に、青と白のペンライトの海になった会場が、音楽に合わせて波のように揺れる。1曲目、“マリンスノーの花束を”が始まる。
そらるが「最高な1日にしましょう!」と叫び、のびやかなビブラートで歌う。まふまふは黒髪という普段とは違う装いだが、これも今回のライブに特別感をプラスする一興に感じる。

After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ - まふまふまふまふ

立て続けに“セカイシックに少年少女”へ。明るい2曲に、観客の興奮は高まるばかり。そらるが「すげー最高の景色! ありがとう!」と見渡せば、それに応えるように大きくペンライトが揺れる。息の合ったハーモニーが奏でられ、「もっともっと後ろの方まで声出せますかー?」と、まふまふも会場を見渡すように叫ぶ。

そらるが「とうとうこの日が来てしまいましたね」と話し始めると、ふたりは慣れない様子で決めポーズ。まふまふによると、2万人近く満席とのことで、感謝の言葉が。
「今すごい楽しい」とそらるが続けると、「本当に雨降ってきてしまったね」(まふまふ)、「じゃあ明日は晴れるね」(そらる)とゆるめの会話に、会場も和む。
そして、配布されたリストバンド型ライトに触れ、「腕の丸っこいのがいい仕事するから」と、次の曲はペンライトを消してというそらるの指示に、一斉にペンライトが消え、会場は暗闇になる。

After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ

するとステージでは炎が吹き出し、冒頭2曲とは一変、激しいイントロから“解読不能”に。腕のライトが曲調に合わせて激しく点滅、さらに会場のブロックごとに色が変わって光る演出は、会場全体がふたりの世界観に掌握されたようだ。
そして“盲目少女のグリザイユ”では、観客は一斉にペンライトを点けると、青と白の中に、ピンクのライトも。ステージのライティングも美しく、「グリザイユ」とは「灰色」の意だが、曲を鮮やかに彩っていた。

After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ - そらるそらる

続いて、まふまふのボカロ曲をそらるが「歌ってみた」で投稿した“メリーバッドエンド”。そらるは「まだまだ熱くなっていこうぜ!」と叫び、まふまふはギターをかき鳴らす。このヒリヒリするような曲にあわせて、時に激しく、時に怪しく、レーザーが会場を飛び交う。
そしてそのレーザーが規則的な動きを始めると、まふまふによる“ECHO”へ。カメラがステージを上から映すと、まふまふを中心に、音楽に合わせて音の波が放出されているような演出が。そしてこの激しい曲に合わせ「たまアリもっと声出せよー!!」と叫ぶ。

激しい曲が続いた後、ギターとピアノの音色が美しい、バンドセッション曲“「七夜月-ナナヨヅキ-」”へ。ベースによるメロディラインが心地好く、スクリーンには提灯や鳥居の映像で、夏祭り気分が盛り上がる。

After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ

セッションの後、尺八の音色から始まる“林檎花火とソーダの海”へ続くのは、昨年の武道館公演を思い起こさせる。鮮やかな柄の和の衣装をまとったふたりが登場し、高まった夏祭り気分を一層盛り上げる。
そらるがステージの両脇の橋を示唆すると、次の曲“夢のまた夢”では、ふたりはその橋を渡り、トロッコへ。客席の間を通り、法被を来た先導の踊り手たちがトロッコの前後で歩くさまは、そらるとまふまふを乗せた屋台が練り歩いているようだ。そして会場後方のステージに到着すると、そらるは飛び跳ねながら煽る。
また衣装は、先日MV撮影で使用した衣装を使いたいというまふまふの提案で今回着用したという。浴衣とも着物とも少し違う、それぞれのイメージカラーに合った華やかな衣装は、確かに今回の「宴」というコンセプトにピッタリだし、この会場に立ち込める和の雰囲気を一層彩っている。

After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ

そしてこの日の天気にぴったりな、“天宿り”がそらるの美しく優しい歌声で歌い上げられる。そらるは会場を見渡し、全体に届くように歌う。
次に、まふまふが2016年に「歌ってみた」を投稿した“夏祭り -Arrange ver-”を、今日はふたりで歌う。ステージがせり上がると、まふまふは曲に合わせてぴょんぴょん跳ねながら、高くなったステージでさらに会場全体の隅々まで見渡し、この空間を楽しんでいるようだ。そらるはあまりの高さに座ってしまうが、まふまふはさらに「もっともっとみんな声出せますよねー!」とはしゃいでいるよう。曲のリズムに合わせて、客席の提灯も点滅し、盛り上がりは最高潮に達した。

After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ

次の“わすれられんぼ”では、まふまふはギターを弾きながら歌い、そらるも堂々と歌う。そらるは歌うとき、マイクを持つ腕の袖を抑えて歌うのだが(衣装の袖が振り袖のようになっているので)、そういう所作のひとつひとつに、2万人を前に歌うパフォーマーとしての責任感と、「魅せる」ということへのプロ意識を感じる。
歌い終わるとそらるはまふまふの背中をポンと叩く。きっとステージ上では、目には見えないふたりの綿密な心のやりとりが行われていたのだろう。
“彗星列車のベルが鳴る”を歌いながら、ふたたびふたりはトロッコで会場を練り歩き、まふまふはまた楽しそうに「みんな元気ですね! ありがとう!」と手を振る。メインステージに戻ると、「こわかったけど楽しかった。みんなの顔めっちゃ見えました」とそらる。
「みんなの笑顔が眩しい」、「野太い声が聞こえた」、「結構年齢が上な人がいた」など、後ろのステージに行く道中や、そのステージで、ちゃんと観客の声を聞いたこと、顔をちゃんと見たことを話してくれるのは、ファンとしても嬉しいことだろう。

そして、できたばかりだという9月5日リリースのニューアルバム『イザナワレトラベラー』の宣伝から、そのアルバムに収録される新曲“妖のマーチ”が披露される。重いバスドラムの音が刻まれ、EDM調だが和の雰囲気もある楽曲に、同じく和の雰囲気漂う、りゅうせーによるイラストMVがスクリーンに流れた。さらにリストバンド型のライトが、青と白のペンライトに混じって赤や緑に光っているのも印象的であった。
そのままの流れで、まふまふソロとしての新曲である“朧月”へ。まふまふイメージカラーの白と曲のイメージカラーの赤のペンライトが混じって、薄ピンク色に会場が染まる。透き通るようなファルセットが響き渡り、日本語歌詞の美しさが際立つようだ。

バンドセッション“「皐月雨-サツキアメ-」”では、スクリーンで赤い桜が舞う中に朧月が浮かび上がり、会場も赤いペンライト一色になる。

After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ

夏祭り気分から一転、“アンチクロックワイズ”で世界観が一気に変わり、「久しぶりにこの曲をやります」とまふまふが告げて始まった“アイスリープウェル”ではステージの上手と下手の端で歌い、そのステージを上から映すと、大きな蝶が舞っていた。
次の“夕立ち”では、スクリーンにふたりの映像がセピア色で映し出される。ひぐらしの声が鳴り響き、儚さと憂いを含んだこの歌が、会場一面のオレンジのペンライトによってさらに情緒を増す。

「みなさん楽しんでおられますか?」とまふまふが話し出す。そして今回のセットリストについて、「自分たちで考えられる、最強に大変だけど最強に良いセットリストにしよう」としたとのこと。AtRの曲は難しいものが多くなかなかカラオケなどで歌ってもらえないことを話すが、逆にその難しい曲をこれでもかと盛り込んだこの最強のセトリを持ってくるところに、改めて今回の公演への意気込みを感じざるを得ない。さらに、レコーディング時の裏話も語られるなど、本人たちには少し余裕を感じられるかと思いきや、さいたまスーパーアリーナがどれほど夢の舞台だったかを語りだす。かつては、大勢の歌い手たちが集まってイベントに出演していた会場であり、「いつかはここでひとりでできるようになったら……」という気持ちがずっとあったという。「今日この舞台に立てるということ。After the Rainとして2年半という、意外と早く、駆け足だけど皆さんがついてきてくれたこと。そしてAfter the Rainの始まりの曲を持ってこれたことを嬉しく思います」と感謝を述べるとともに、始まるのは、After the Rainとして初めて投稿された曲“桜花ニ月夜ト袖シグレ”。
会場が一面ピンクに染まり、ふたりの伸びやかな歌声が、この大きな会場いっぱいに響き渡る。そしてまふまふは、「ありがとう、すごい素敵な景色でした」と噛みしめるように静かに言うと、そらると最後まで美しいハーモニーを奏でる。

ピアノのイントロから“四季折々に揺蕩いて”が始まり、「最後まで出し切っていこう」とそらるの掛け声。リストバンドライトも曲に合わせて点滅し、まふまふもぴょんぴょんと跳ねながら歌う。

先程のMCの続きから、昔、歌い手たちのイベントに出た時の話へ。その時は現実感がなく、人の顔が見られなかったけれど、「今日はみんなの顔がよく見えます」とそらる。そして、「決して自分ひとりの力でここに居るわけじゃない」と、ファンや関わった全ての人たちへ感謝の言葉と、一緒に歩んできたまふまふへの感謝が述べられると、そんなふたりの光景と、ここまで弛まぬ努力をしてこのステージに立ったふたりに、会場からはあたたかい拍手が送られた。
そして本編最後の曲として、そらるは少し言葉につまりながら、アルバム『イザナワレトラベラー』に収録される新曲“彷徨う僕らの世界紀行”を紹介。ふたりはステージの真ん中の階段に座り、優しく歌い上げる。ふたりだけにスポットライトが当たり、息の合ったハーモニーが繰り広げられていたかと思えば、2番で曲調は一転、アップテンポに。スクリーンでは、今回のライブへ向けてのものであろうリハーサルの映像や、昨年の武道館公演の映像がモノクロで流れる。ふたりの軌跡をたどっているかのように感じた。

After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ

アンコールに応えて再びステージに登場すると、まふまふは銀髪に。そしておなじみ、“脱法ロック”が始まる。まふまふの一層高い声が会場を貫くが、アンコールでまだまだここまでの声が出ることに驚く。お客さんもこの定番曲を楽しそうに一緒に歌う。
そして、ふたりがそれぞれ「歌ってみた」を投稿している“ロキ”へ。まふまふ feat.そらるバージョンと、そらる feat.まふまふバージョンが入り混じって歌われ、この曲の特徴でもあるがなり声も完璧に歌う。アンコール2曲目だというのに、ここまでの声量とクオリティで歌っていることに感嘆してしまう。

After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ - まふまふまふまふ

「セットリストやばいですね。喉が吹き飛ぶんじゃないかと(笑)」と話すまふまふ。まさにその通りだと思った。今回は最強のセットリストだと言っていたが、それ以上だと思う。ここまでの最後まで攻めの構成を、明日も繰り広げるのかと思うと、このふたりの底知れぬパワーと、今回のライブへ込めたとてつもなく大きな覚悟と信念がありありと伝わってくる。しかも、この終盤になってもクオリティを一切崩さず、むしろさらに攻めてきている姿勢には敬服したいくらいだった。

After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ - そらるそらる

そしてふたりは戯れながら、こちらもおなじみの猫耳を付け始め、「まだまだ声出せるかー!? 猫になれるかー!!??」の掛け声から、最後の曲“すーぱーぬこになりたい”で、再びトロッコに乗り、会場を練り歩く。そして途中で止まって客席の方へ向いてパフォーマンスし、一層近いふたりに観客はさらに大きくペンライトを振り、目一杯の声で合いの手を入れる。
曲の終わりに銀テープが放出され、最後は会場のお客さんと一斉にジャンプして締める。
バンドメンバーと一緒にステージの端から端まで歩いて会場全体に向けて挨拶し、最後はマイクを外して「ありがとうございました!!」とありったけの声で叫ぶ。
ステージから捌ける際に、そらるがまふまふの肩を叩く姿が見えた。

After the Rain「雨乞いの宴」/さいたまスーパーアリーナ

両国国技館、日本武道館、そして今回のさいたまスーパーアリーナと、この2年半あまりで、階段を何段飛ばしかわからないほどに駆け上がっているAfter the Rain。ハイペースすぎるかと思うが、まふまふは今年3月に幕張メッセ国際展示場9~11ホールというとても大きな会場で、友達を呼んだ主催ライブを2デイズ成功させ、そらるも昨年全国ツアーを経て、横浜アリーナという大きな会場でワンマン公演を大盛況に終わらせている。それぞれが名実ともにトップクラスであり、そしてそれぞれが弛まぬ活動をしてきているからこそ、ついてくるファン、支えてくれるスタッフや仲間がいるのだと思う。飛ばした階段は、それぞれが地道に上っているし、その1段1段の価値も知っているから、その先にあるものに、ふたりは傲ることなく向き合っているのだ。
だからこそ、今回のたまアリ2デイズという偉業は、なんの不思議もないことなのだ。ひとりでも多くのファンに届けるために大きな会場で、そして大きな会場でも隅々まで楽しんでもらえるように考えに考え抜かれた演出――Twitterのフォロワーが100万を超えようと、アーティストとしての姿勢は、ひとりひとりのファンと向き合っているくらいの真摯なものだということがひしひしと伝わってきた。

「歌い手」というジャンルやネット発のアーティストは、だんだん知られるようになってきた。After the Rainのふたりは、この界隈の道を、大きく切り拓く先駆者のように見えた。
これからもこのふたりはどんどん飛躍していくだろう。こちらが振り落とされないよう、しっかりとついて行きたい。そう思えるライブであった。(中川志織)
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