ザ・クロマニヨンズ @ SHIBUYA-AX

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『ザ・クロマニヨンズ ツアー2013 イエティ対クロマニヨン』

「こんな時間だったら、ずっと続けばいいのにって思う。死にたいなんて思ったことないけど、死んでもいいって思う」。ライヴ本編の後半、甲本ヒロト(Vo.)が投げ掛けていたこんな言葉が、すべてを集約していたのではないだろうか。2月にリリースされた通算7作目のアルバム『YETI vs CROMAGNON』を携えたツアーの40本目。ド平日のSHIBUYA-AX2デイズがみっちみちに埋まるという光景の凄さもさることながら、今後ライヴハウスでの公演は7/6の仙台Rensaまで続き、9月からはホール規模の公演が控えている。クロマニヨンズ史上最多のステージを駆け抜ける、マラソン・ツアーのまだまだ中盤戦なのである。本レポートではセット・リストそのままの掲載は控えるけれども、演奏曲などネタバレを含むので、今後の公演に参加予定の方は閲覧にご注意を。

ステージ背景で明滅する『イエティ対クロマニヨン』のツアー・タイトルに合わせて巻き起こされる、「イエティ!」「クロマニヨン!」の盛大なコールがメンバー4人をステージへと迎え入れ、オーディエンスと対峙したヒロトが「オーライ! ロックンロォール!!」のソウルフルなシャウトを一発。ツアー中盤とはいえ、“グリセリン・クイーン”の歌詞になぞらえて言えば《毎秒が伝説》なクロマニヨンズのライヴなのだから、その沸点へと到達する速度はとんでもないレヴェルにある。ニュー・アルバムの収録曲をすべて演奏してしまうという、デビュー7年目で7枚のアルバムをリリースしてきたグループとしては驚くほど真っ当な「新作ライヴ」を展開してしまうこともクロマニヨンズならではだ。ヒロトは「『YETI vs CROMAGNON』のアルバム、全曲やっても30分ちょっとなので、ええ、他にもアルバムありますので、やりますよ」と告げていた。

しかし、ここで面白いのは、必ずしも「新作+往年のヒット・シングル連打」という構成にはならないということだ。今回の公演で言えば、具体的には“ナンバーワン野郎!”、“雷雨決行”をはじめ“ゴー ゲバ ゴー”、“欲望ジャック”、“他には何も”と、前作『ACE ROCKER』期のレパートリーが比較的多く披露されていた。クロマニヨンズなんだから、何をプレイしたってかっこいいよ、と言ってしまうのは簡単だけれども、新しいファンにとって敷居の低いライヴであるのと同時に、バンドのキャリアに長く付き合って来たファンを確実に楽しませるためのハードルが高くなっているのは間違いない。

ザ・クロマニヨンズ @ SHIBUYA-AX
クロマニヨンズというのは、例えるなら、オーディエンスが追いつけるギリギリのポイントに必殺のスルーパスを繰り出し続ける、名キッカーのようなものだ。胸元ど真ん中に突き刺さるロックンロール、なんていう比喩があったりもするけれど、クロマニヨンズのロックンロールは走らせる。オーディエンスを置き去りにして好き勝手にメチャクチャやるのは恐らく好きじゃないし、オーディエンスを甘やかしたロックンロールを放るのも好きじゃない。というかそれはロックンロールではない。オーディエンスを信頼しているからこそ、シビアな、かつ精度の高いリードパスのようなロックンロールを繰り出し続けるし、日夜そのための技術を磨いて新曲を生み出す。オーディエンスはそのロックンロールを追って全力で走らざるを得ないし、だから前を向かざるを得ない。そんなスリルと歓喜の一瞬を分かち合うための練り上げられたコミュニケーションがなければ、“ヘッドバンガー”や“人間マッハ”のような新曲で異常な熱量のシンガロングが沸き上がったりはしないだろう。

“ホッテンダー”のユーモラスでありながら奥深い歌のレゲエ・グルーヴをがっちり支え、或いは“黄金時代”でオーディエンスを突き飛ばすように爆走するボトムを担っていた小林勝(Ba.)と桐田勝治(Dr.)。“燃えあがる情熱”でのカツジは終盤、ドラム・セットの中で立ち上がるようにしながら、昂ったプレイを見せていた。ヒロトのハープと真島昌利(G.)のギターがブルージーに焦げ付いたインプロを奏でて傾れ込む“炎”のカップリング曲“とがってる”も最高だったし、マーシー節の“団地の子供”と“紙飛行機”が共にノスタルジックな情景を呼び起こしながら物語を繋ぐさまも素晴らしかった。“日本の夏ロックンロール”は、まさにこれからのシーズンを迎撃するアンセムだ。そして、孤独と気高さをこの上なくシンプルに描ききってしまう名曲“涙の俺1号”。甘えず、見捨てず、この感情を全力で分かち合うことがロックンロールの奥義なのだと、クロマニヨンズは今日も伝えている。

オープニングと同様、「イエティ!」「クロマニヨン!」コールで迎えたアンコール。ヒロトはTシャツを着るのではなく「履いた」姿で、「アンコールありがとう! おかげでアルバムの曲が全曲できます(笑)……ハチマキを締めたあなた、お名前は? ジョー? 全員の名前は覚えられないけど、ジョーとその他の皆さん、ありがとうございました!……ジョーか、惜しいな。ここはジョニーって言うんだよ(笑)」と一期一会のコミュニケーションを楽しみ尽くしていた。まったく、クロマニヨンズとの遭遇は、毎回が事件だ。(小池宏和)
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