『ウェア・ユー・スタンド』の1曲目にならってオープニングは“Mother”。イントロでフランに独りピンスポがあたり、続いてAメロでダギーにもピンスポ、そしてメイン・コーラスのドラムブレイクでバーン!とステージの照明が全開になり、眩しい光の中でメロディがバーストしていくというのっけからけれんみたっぷりな演出に早くもフロアからは大歓声が上がる。そのままの勢いでトラヴィス流ビート・ロックの名曲“Selfish Jean”へと畳みかけられる冒頭の展開は、スタートダッシュと呼ぶに相応しいものだった。
そのスタートダッシュの興奮のせいで一瞬確認が遅れたのだが、改めてステージの4人を見渡してみると、フランがサンタクロースみたいな真っ白な髭をたっぷり蓄えていて驚く(フランは自分でも「サンタクロースみたい」と言っていた)。でも、そんなフランの外見以外は大きな変化はなく、と言うか、トラヴィスの場合はひとたびライヴで音が鳴れば一瞬で物事の道理が正しい場所に立ち戻っていくような、唯一無二の音楽空間がそこには生まれるのだ。「ハイ、調子はどう? グッド? 今日は古い曲も新しい曲も、いろいろ演るつもりだよ」とフランが言うと、淡いブルーのライトの中で新曲“Moving”がゆったり広がり、フロアで掲げられた数千の手が空をかき混ぜるウェイヴも圧巻だった“Love Will Come Through”へ、そして、流れ行く清流のようなアルペジオにトラヴィスの音楽の美をしみじみ噛みしめる“Driftwood”へと、中盤はメロウでメロディ・オリエンテッドなナンバーが続く。
そこから一転「次の曲はみんなの助けが必要なんだ。ダギーとアンディのコーラスをみんなにもやってほしい」といって始まった“Warning Sign”では、オーディエンスが3パートのコーラスを大合唱する傍らでアンディのばきばきヘヴィなリフが唸るハード・ロッキンな仕上がりだ。“My Eyes”ではフランがハンドマイクでぴょんぴょん跳ねながら歌いあげ、客席に飛びおり、最前列のファンと上手から下手まで片っ端からハイタッチをして回る。前半から中盤にかけてのメロウでメロディ・オリエンテッドな流れから、後半のロックで祝祭のカタルシスへ、ここら辺のショウの構成も見事だった。
そして、ここまでで最もハードな“Writing to Reach You”で場内の温度を高めきったところで始まった“Side”から本編フィナーレの“Turn”までの流れは、文末のセットリストをご覧いただければわかると思うが、もはや容赦なしのシンガロング・ナンバー乱れ打ちとなった。“Side”をやり、“Sing”をやり、“Turn”で終わるというクライマックスの構成は昨年のHostess Club Weekenderとだいたい同じだし、もっと言えば5年前の東京国際フォーラム公演とも同じようなものだった。そしてトラヴィスのライヴの凄さとは、いつも同じなのにけっしてだらけない、そこには常にぴんと張り詰めた緊張感があることだ。その緊張感は究極の普遍性と向き合い続けている彼らの自覚ゆえだと思うし、トラヴィス史上最も「トラヴィスらしい」アルバムとなった『ウェア・ユー・スタンド』を作った今だからこそ、その変わらなさを彼ら自身がバンドの最大の強みであり、使命であると確信している揺るぎなさをも感じられた。
アンコールの1曲目はデビュー・アルバム『グッド・フィーリング』から懐かしの“Happy”、そしてメンバー全員がステージの真ん中に集まり完全アンプラグドで披露される恒例の“Flowers in the Window”ではフロアのいたるところでカラフルな花飾りが揺らされる。「この曲はベッドルームで歌うみたいにみんなに聴いてほしいんだ」、そう言ったフランたち4人のマイクを使わず地声のハーモニーを邪魔しない控え目なヴォリュームで、しかし一語一句たがわぬ完璧なコーラスをオーディエンスが添えていくこの曲は、ステージとフロアの阿吽の呼吸で生み出される、ほとんど名人芸の域だ。
「ずっとぼくらのことを待っていてくれてありがとう。次は夏、フジ・ロックで会おう」と言って始まったラストはもちろん“Why Does It Always Rain On Me?”。「どうして雨は僕に降り続くんだろう」と歌われるよくよく考えるまでもなくペシミスティックなこの歌が、これ以上ないほど美しいメロディに乗せて歌われると、そこに生まれる完璧な調和とハーモニーがどんな陽だまりよりも温かく優しいと信じられる、これこそがトラヴィスの音楽の魔法なのだとつくづく感じる幕切れだった。(粉川しの)
セットリスト
M1. Mother
M2. Selfish Jean
M3. Pipe Dreams
M4. Moving
M5. Love Will Come Through
M6. Driftwood
M7. Warning Sign
M8. Re-Offender
M9. Where You Stand
M10. My Eyes
M11. Reminder
M12. Writing to Reach You
M13. Side
M14. Closer
M15. Sing
M16. Slide Show
M17. Blue Flashing Point
M18. Turn
En1. Happy
En2. Flowers in the Window
En3. All I Want to Do is Rock
En4. Why Does It Always Rain On Me?