空音、ど真ん中に刺す叙情性ラップ

『ROCKIN'ON JAPAN』最新号(2020年7月号)New Comerより

今年1月にリリースされたクリープハイプのシングル“愛す”のリミックス最終作の、オリジナルの“愛す”で描かれているふたりのアナザーストーリーを綴ったような叙情的なリリックと歯切れのいいラップで、空音(そらね)の名が強く刻まれた人も多いかもしれない。

尾崎世界観に作詞面で多大な影響を受けたという空音は2001年生まれ、兵庫県尼崎市出身の19歳のラッパーだ。高校生の時にYouTubeにアップした“planet tree”が注目され、2019年4月に配信にてリリースした1st EP『Mr.mind』はiTunesのヒップホップ/ラップ チャートで1位を獲得。その後、関西ヒップホップ界の大先輩である韻シストBASIに招かれ、“月ひとつ feat. 空音”で客演。2019年12月にリリースされた1stフルアルバム『Fantasy club』に収録されている“Hug feat. kojikoji(Album ver.)”のMVはYouTubeで300万を超える再生回数を記録した。SFチックでファンタジックなストーリーが鮮明に膨らみ、多用されるオートチューンが甘く効いた名ラブソングだ。


耳に残るメロディとパンチラインを宿したラップの実力もさることながら、空音のリリックはとても文学的で、聴き手の想像力をむくむくと開放するような物語性を持っている。

前作から約半年というスパンでリリースする2ndアルバム『19FACT』は、アップテンポでバウンシーなトラックに、《年齢を経験値にしちゃダメだよ/Level 100 超えた自分に会いに行こう》と乗せる冒頭の“Fight me feat. yonkey”をはじめ、矢継ぎ早に宣戦布告を繰り出されるコシのあるラップと、キレのあるトラック、強い歌メロ、そしてポジティヴなヴァイブと、ポップミュージックのど真ん中に突き刺そうというエネルギーが渦巻いている。1曲1曲濃密な物語が描かれ、音楽に身を捧げ、大きな夢に向かっていく19歳のリアルなメッセージアルバムになっているところが、何よりも胸を打つ。(小松香里)


『ROCKIN'ON JAPAN』2020年7月号