YOASOBI、小説と音楽による新たな「物語」の誕生

YOASOBI、小説と音楽による新たな「物語」の誕生
『ROCKIN'ON JAPAN』最新号(2020年7月号)New Comerより

2018年12月からボカロPとして楽曲投稿を開始し、その楽曲の美しさ、切なさが高い評価を博しているAyase。そして、シンガーソングライター・幾田りらとして、また、アコースティックセッションユニット、ぷらそにかの一員としても活躍を続けるikura。才能あふれるこのふたりのアーティストがタッグを組んだとなれば、そこで生み出される楽曲が、魅力的な「物語」を描き出すであろうことは想像に難くない。そんなAyaseとikuraのユニット、YOASOBIは、「小説を音楽にする」をテーマとし、昨年11月に第一弾楽曲“夜に駆ける”のMVを公開。星野舞夜が書き上げた『タナトスの誘惑』をもとに作り上げたこの楽曲は、公開から5ヶ月で再生回数が1000万回を突破。YOASOBIのコンセプト、そしてその音楽は多くの音楽ファンの耳を惹きつけた。


そんなふたりの3作目となる最新作“ハルジオン”がこの5月にリリースされた。『スクロール』等で人気の作家、橋爪駿輝が『それでも、ハッピーエンド』という原作小説を書き下ろし、それをもとに完成した楽曲が“ハルジオン”だ。かつての幸福と心の痛みと再生への希望が描かれる原作小説は、その文体や構成、それ自体が音楽的でもあり、それをもとにした“ハルジオン”はどこか小説的な深みを持つ。その関係性は、映画やドラマに音楽が彩りを添えるということとは似て非なるものだと実感。小説と音楽が同時に鳴るのではなく、それぞれが描いた景色を行き来しながら、受け取り手であるリスナー自身が、その「物語」にさらに立体的な手触りや色を加えていくような新しい体験なのだ。


“ハルジオン”は、そんなYOASOBIのコンセプトが明確に理解できる楽曲。心がはやる疾走感や、沈黙の叫びなどは小説でももちろん感じられるものだが、音楽だからこその編み方で、感覚的にその「物語」が体に沁みてくるという体験はとても新鮮だ。Ayaseのソングライティングと、ikuraの静かに感情を波立たせるような歌声がそれを見事なバランスで成立させている。今後の「物語」にも期待せざるを得ない。(杉浦美恵)


YOASOBI、小説と音楽による新たな「物語」の誕生 - 『ROCKIN'ON JAPAN』2020年7月号『ROCKIN'ON JAPAN』2020年7月号
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