遂に公開された新海誠監督作『すずめの戸締まり』。その未知の感動を彩るサウンドトラックを徹底レビュー
文=小池宏和
11月11日に全国劇場公開がスタートし、最初の3日間で18億円以上の興行収益を記録。少なくとも初動においては『君の名は。』や『天気の子』といったヒット作を凌ぐ数字を叩き出した、新海誠監督の最新アニメーション映画『すずめの戸締まり』。信頼のタッグパートナーとしてこれら新海映画の音楽面を担い続けてきたRADWIMPSは今回、陣内一真という強力な共作者とともにサウンドトラックアルバムを制作し、劇場公開と同日にリリースした。また『ミュージックステーション』に出演して“すずめ feat. 十明”、“カナタハルカ”という主題歌2曲をテレビ初披露。大車輪の活躍で劇場公開を援護射撃する形になった。
ミュージックビデオも話題の主題歌があるとはいえ、やはり映画のサウンドトラック。映画本編の中で音楽がどのように機能しているかが最も重要だ。というわけで、さっそく劇場に出かけ『すずめの戸締まり』を鑑賞してきた。圧倒的な作品だった。シリアスな物語とテーマを根底に据えながら、コミカルなシーンも含めて小気味よく展開するストーリー。眩いまでの神々しさと畏怖さえ覚える禍々しさが巧みに描かれた映像美。魅力たっぷりに躍動するキャラクターたちと、それを支えるキャストの活躍。もちろん音楽面も含めて構成要素のすべてが素晴らしかったのだが、強靭な意志と作家性をもってこの映画に大きなメッセージを込めた新海監督の覚悟にこそ、僕は圧倒されたのである。その意味で、新海映画の最高傑作であった。
とりわけRADWIMPSは、これまでの新海映画との関わりの中で、自らも表現領域を押し広げ成長するようにしながら、サウンドトラックを手掛けてきた。新海監督のラブコールに応える形で参加した『君の名は。』ではロックバンドたるRADWIMPSの音楽が映画本編の制作段階から重要視されたが、『天気の子』では主要ボーカルトラック数曲を三浦透子のリードボーカルに委ねるという大胆な発想を実現させることで、新たなサウンドトラック表現を開拓した。新海監督とRADWIMPSはただ親交のもとにコラボレーションを重ねるのではなく、お互いの作家性を理解し、お互いの新たな表現を引き出すようにしながら、より深い部分で結びついている。『すずめの戸締まり』を観てまず驚かされたのはその点だった。アルバムには陣内一真の単独作や彼との共作曲も含めて全29トラックもの楽曲が収められているのだが、主題歌2曲がエンディングで流れるまで、劇中歌としてのボーカル曲が登場しないのだ。『君の名は。』における“夢灯籠”や“前前前世”が、また『天気の子』の“風たちの声”や“祝祭(feat. 三浦透子)”や“愛にできることはまだあるかい”が劇中歌として重要な役割を担っていたことと比較しても、これは大きな変化である。(以下、本誌記事に続く)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年1月号より抜粋)