今は悲しい曲は書きたくないなって。幸せな曲を書きたい
SNSでバズって一気に名前を広め、それが今リアルなライブシーンでの盛り上がりに帰結しているという順序は、確かにとても今っぽい売れ方だと思う。コロナ禍という背景もあっただろうが、誰しもに表現と発信のフィールドが与えられているSNSがあったことは、間違いなくねぐせ。にとって幸いだった。だがライブハウスのフロアでキラキラと目を輝かせて彼らのステージを観ているファンの顔を見ていると、SNSがあろうとなかろうと、コロナがあろうとなかろうと、結局このバンドはこんなふうにたくさんの人に支持され、受け入れられたんだろうなと思う。なぜならねぐせ。の音楽には、最初から僕らリスナーの居場所があるからだ。
『ハッピーな暮らし』や『スペースシャトルで君の家まで』、あるいは“日常革命”や“愛してみてよ減るもんじゃないし”──ねぐせ。の曲や作品のタイトルにはいつだってどうにもならない毎日と、でもそれをなんとかしたいという願いが込められていると思う。ずっとハッピーが続く暮らしなんてないし、スペースシャトルで君の家まで飛んでいくなんてできないし、いくら願ったって愛は手に入るとは限らない。そのことを知っているからこそ、彼らはバンドをやる。少しでもそこに近づくために、だ。楽器を持って音を鳴らしている間だけは、ステージ上の4人も、フロアでそれを観ているみんなも無敵になれる。ほっといたらすぐに消えてしまう笑顔をちゃんと浮かべることができる。それがバンドの役割で、自分たちにできることだと、彼らはちゃんと知っている。
ついにリリースされるねぐせ。のファーストフルアルバムは『ファンタジーな祝日を!!!』と名付けられた。ただでさえ特別な「祝日」を、さらに「ファンタジー」にするんだというそのメッセージは、まったくファンタジーじゃない平日を過ごしている僕たちにものすごいエネルギーを与えてくれる。決して特別じゃない4人が、特別じゃないからこそ鳴らせたハッピーで優しいロック。きっとこのアルバムはさらにたくさんの人の日々を救い出すだろう。
インタビュー=小川智宏 撮影=川島小鳥
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年3月号より抜粋)
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