2024年1月12日、スピッツが日本武道館で単独公演を開催した。2023年6月から始まった全45公演を回る全国ツアー「SPITZ JAMBOREE TOUR '23-'24 “HIMITSU STUDIO”」の東京公演である。日本武道館での公演は2日間にわたって開催されており、1月12日は2日目の公演に当たる。
この日、スピッツはアンコールも含めて23曲もの楽曲を演奏した。今回のツアーは、昨年5月にリリースされた17作目のフルアルバム『ひみつスタジオ』のリリースツアーである。それゆえにセットリストには『ひみつスタジオ』収録曲がたくさん名を連ねていたが、もちろんそれだけではなく、その長く豊潤なバンドの歴史の中から様々な楽曲が選ばれて、演奏された。
温かさ、熱さ、クールさ、かっこよさ、かわいさ、激しさ、繊細さ、毒々しさ、力強さ、ユーモア、現実的、夢見心地……そのすべてがあって、どれかひとつだけを切り取って語ることなど到底できやしない。あまりにも色とりどりの魅力が混ざり合っていて、それでも、混ざり合った結晶は真っ黒にも、濁った色にもならず、とてもクリアに澄んだものとして、私たちの前に提示される。武道館でのライブは、そんなスピッツというバンドの凄みと魅力が無限に爆発しているような、素晴らしいライブだった。
この日は、ちょっとしたハプニングで幕を開けた。開演時刻である19時を迎えて、まずステージに上がったのは三輪テツヤ(G)。そして、その少しあとにサポートのクジヒロコ(Key)もステージに上がった。しかし、今ツアーの他の公演を観る限り、本来ならば他のメンバーも共にステージに登場するはずだが、ふたりがステージに立った状態で沈黙が続く。後のMCで触れられたことによると、どうやらステージ裏でイヤモニのトラブルが起こっていたらしい。しかしそこはさすがに熟練のバンド、動じた様子は見せず、呼吸を整える。そして、準備が整った草野マサムネ(Vo ・G)、田村明浩(B)、﨑山龍男(Dr)の3人もステージに登場。「これから、あのスピッツが目の前で演奏する」――そんな興奮と緊張感に満ちた空間を、ズバッと切り裂き、喜びの空間へと導くように、ロックバンドの音が、スピッツの音が響き渡る。暗かった場内の照明が一気に明るくなり、空間を照らし出す。奏でられた1曲目は“めぐりめぐって”。『ひみつスタジオ』の13曲目、つまりアルバムの最後に収められている楽曲である。(以下、本誌記事に続く)
文=天野史彬 撮影=西槇太一、内藤順司(P38−41右)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年3月号より抜粋)
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