あいみょん、深まったなあというのがアルバムを聴いたときの最初の印象だった。歌声の深まり、描く物語の深まり、人間の性(さが)や男女の関係をめぐる機微を見つめる視線の深まり。デビュー8年、アルバム5枚目。あいみょんはいつもグッドミュージックの核心に触れながら、ちゃんとその才能の到達点を更新している。
だが、このアルバムであいみょんが最も鮮明に深めたもの。それはきっと愛というものをめぐる音楽作りの精度についてなのだと思う。愛を描くのは難しい。愛を定義するのはもっと難しい。愛を語り合うのはすごく難しい。だけど、愛を歌うことはできる。メロディがあなたを愛してると歌っている。愛してると歌詞で歌えばいいじゃないかという話ではない。愛してると叫ぶ音楽よりも、愛してるを込めて歌われるラララのほうがよっぽど愛してるが伝わることを僕たちはとっくに知っている。今あいみょんが綴っているメロディは、あるいは今あいみょんが歌っているその歌は、愛という形のない曖昧な、巨大なのか枠組みがあるのかもわからない、でもなんだか丸い形はしていそうな概念を歌って届けるという作業において、とてつもない快挙的な精度に達していると僕は思う。さよならまじりの愛を歌った“あのね”や、なくした人を思って空に歌う“愛の花”を聴いて、これを愛の名曲と呼ばずしてどんな曲をそう呼べばいいのだろう。僕はわからない。
『猫にジェラシー』。愛と恋のなんとかなんていうタイトルを絶対につけないあいみょんが僕は本当に好きだ。愛と恋のなんとかなんていうタイトルで聴き手の心をガイドしてしまわないあいみょんはかっこいい。自信があれば潔くあれる。そういうことなのだと思う。あいみょんには大切なことを学ばされてばかりだ。
あいみょんのアルバムタイミングでは恒例だけども、ロングインタビューを2本のテキストにまとめている。アルバムが生まれるまでのドキュメントを語ってもらった総論インタビューと、あいみょん独り語りの全曲解説セルフライナーノーツ。『猫にジェラシー』というタイトルの理由も、29歳のあいみょんのリアルな心境も、深まるアーティストとしての自覚と信念も、すべてしっかりと訊くことができた手応えがある。大切なことだけを、さらりと語ってくれる、そのあいみょんらしい語り口もそのまま楽しんでほしい。
インタビュー=小栁大輔 撮影=川島小鳥
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年11月号より抜粋)
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2024.09.30 12:00