リチャード・D・ジェイムス完全復活。AFX新作が示した『サイロ』の彼岸 前編

リチャード・D・ジェイムス完全復活。AFX新作が示した『サイロ』の彼岸 前編

昨年13年ぶりのニュー・アルバムを唐突にリリースして全世界を驚かせたエイフェックス・ツイン。その新作『サイロ』がブランクなどものともせずオリコン・ベスト10を始め世界中でベスト・セラーとなり、果てはグラミー賞まで受賞してしまったのはさらに驚いた。テクノ界きっての鬼才として、また奇人変人として、まっとうなポップ・ミュージックの文脈からは完全に外れた「珍獣」扱いだったデビュー時を思えば隔世の感がある。90年代には明らかに異端であり邪道で異物だったエイフェックスは、13年を経てついにポップ・ミュージックの王道に評価されるまでになったのだ。

思えば21年前。エイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムスが初来日した時に、取材したことがある。テクノ全盛期をリードする若手売れっ子の筆頭だったエイフェックスはナイン・インチ・ネイルズやジーザス・ジョーンズなど数多くの売れっ子のリミックスを手がけていた。リミックスを引き受ける時の基準を訊いたら「大事なのはギャラをくれるかどうかであって、素材の質などどうでもいい。いい曲はそれ以上いじる必要がないからやらないよ。むしろひどいものを気に入るように直す方が面白い。僕がリミックスを手がけた曲なんて、ひとつ残らず最悪なのばかりだった」と答え、挙げ句は「日本人のなんてほんと酷かったなあ」なんて言ってたのをよく覚えている。日本人インタビュアー相手の発言で、ですよ!

実になんともリチャードらしい。もちろんこれが100%の本音とも思えない。だがこうした偽悪的な発言に、この警戒心が強くヒネクレ者のうえ虚言癖がある天才の一面の本質があるのではないか。そして人が期待する「エイフェックス・ツイン」像をあえて演じてやろうという、ある種悪意のこもったサービス精神も、そこからは感じ取れたのである。それは『サイロ』にも変わらず存在していた。「ほら、君たちが聞きたいのはこれでしょう」という。『サイロ』は、音だけでなく、そんな底意地の悪さも含め彼らしい作品だった。それが過去最高のセールスと評価を得たのは、彼にとっては「ざまあみろ」と言いたくなるような痛快なことだったに違いない。

『サイロ』の成功を受け、堰を切ったように怒濤のリリース・ラッシュが始まったのもリチャードらしかった。エイフェックス名義の13曲入りEP『コンピューター・コントロールド・アコースティック・インストゥルメンツ・パート2 EP』、「user48736353001」なるサウンドクラウド・アカウントを通じての110曲にも上る膨大な数の未発表音源発表と、もはや誰にも止められない状態。 

そしてこの夏、いきなりアナウンスされたのがAFX名義での10年ぶり新作『オーファンド・ディージェイ・セレク 2006-2008』のドロップなのだった。(続く)

(小野島大)
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