石垣島を拠点に活動を続けるバンド、きいやま商店は今年で結成15年。兄リョーサ(Vo・G)と弟マスト(Vo・G)の兄弟と、従兄弟のだいちゃん(Vo・G)からなる3人組のこの「親族バンド」は、出身地である石垣島をこよなく愛し、そのルーツを大切にしながら独自のロックサウンドやポップミュージックに昇華してきた。そんな彼らの唯一無二のグルーヴをしっかり体感できるアルバム『きいやま商店 ザ・ベスト 〜この歌届け〜』がリリースされた。オールタイムベストと言える選曲は、ファン投票の結果をもとに決め込まれ、結果としてとても「きいやま商店らしい」まさにベストな全21曲となった。これまできいやま商店に触れてこなかった人にも、ぜひとも手にとってほしい入門編としても好適な1枚。このベスト盤について、メンバー全員に語ってもらった。
インタビュー=杉浦美恵
今回のベストアルバムは、初めて聴く人にもきいやま商店のことがよくわかる1枚になっていて、投票してくれたファンの人たちも、それをわかって入れてくれたのかな(だいちゃん)
──きいやま商店は結成15周年。振り返ってみて、今どんな思いですか?だいちゃん あっという間でしたね。3人は生まれた時からずっと一緒にいるんです。僕はリョーサとは同い年だし、マストは1つ下で。その関係の延長上という感じでバンドが続いています。
リョーサ でもその3人が音楽で15年一緒にやれているのは楽しいです。
マスト 一夜限りのバンドとして始まったんですよ。それがまさかこんなに続くとはね。
──なぜここまで長く続いてきたんだと思いますか?
だいちゃん 楽しくて、っていうのがいちばんですね。最初の一夜限りのライブの時に、面白すぎるからもう1回やりたいって思ったんですよ。それで、「またやってくれ」っていうオファーも来ていたし、レコーディングもしたいなと思うようになって。本格的にやっていこうってなったのは、2011年の東日本大震災のあと。あの時、ライブ活動は思うようにできなくなりましたよね。でも、きいやま商店のこの雰囲気だったらできるんじゃないかなって。それで本気出してみようと。それがそのまま続いている感じです。その時にやった合宿がずっと続いてる感じなんですよ。
──今回のベストアルバムは、収録曲を決める前にファン投票を実施したそうですね。投票の結果についてはどう感じましたか?
リョーサ ああ、やっぱりそうかって思う結果でした。
だいちゃん ライブでやる曲が多かったね。
マスト ランク外になったものでも僕らが好きな曲はたくさんあったので、ああ、入らんかったかーっていうのはありますけどね。
だいちゃん 今回のベストアルバムは、初めて聴く人にもきいやま商店のことがよくわかる1枚になっていて、投票してくれたファンの人たちも、それをわかって入れてくれたのかなっていう気はしたよ。ファンの方々もほんとよくわかっているなあって。
──全21曲、とても濃密で楽しくて、聴いているとすごく沖縄に行きたくなる作品です。独特のグルーヴが心地好くて。
マスト 嬉しいです。
だいちゃん ありがとうございます。
──投票結果の1位が“ドゥマンギテ”だったんですよね?
リョーサ そうなんです。アルバムの曲順は必ずしも順位と一緒ではないんですけど、わりとランキング順に近いんですよ。上位のものは最初のほうにありますね。その中でも“ドゥマンギテ”の人気はずば抜けてました。いつもライブでやるからかな。
──15周年のベスト盤として、どういうものにしたいと思っていたんですか?
リョーサ そもそもベスト盤を出したかったんですよ。今、石垣島は観光客の皆さんがたくさん来てくれていて、その観光客の方たちにきいやま商店を教える時、どのCDを買ったらいいか?って訊かれても、僕らも迷うんですよね。だからまず「これ」と言える1枚があるといいなあって、ずっと話していたので。
だいちゃん ライブでもそれぞれのアルバムからいろいろやっていくので、あの曲ならこのアルバム、この曲ならこれって、オススメするのも大変で(笑)。
マスト だからこれ1枚さえ聴いておけば大丈夫ですよっていうものを。
だいちゃん 物販用の持ち運びもね、1枚ならラクですから(笑)。
リョーサ お土産屋さんにもこれ1枚置いてもらえたらいいし、ジャケットもいいですし。
──ジャケットの写真は皆さんのおばあさまですよね? とても素晴らしい笑顔の写真で。
リョーサ そうなんです。今回僕らの15周年でもあるんですけど、沖縄にカジマヤーっていう97歳の長寿を祝う風習があって、ちょうど僕らのばあちゃんが97歳のお祝いの年だったんですよ。ほんとたまたまですけど。それが重なったので。
マスト ずっと、きいやま商店っていうお店をやっていたばあちゃんなので、バンドとしても意味のあるジャケットになりました。
だいちゃん ほんといろいろ重なったんだよね。15周年だからベストを出したっていうわけでもなくて。ベストを出したいタイミングがたまたま15周年で、ばあちゃんのカジマヤーのお祝いだったからっていうのもあって。
海外でいちばん受けていたのが“じんがねーらん”だったんです。「お金がない」っていう曲なんですけど、それは万国共通なんですね(笑)(だいちゃん)
──今作は全21曲で、それぞれに思い入れがある曲だと思うんですが、皆さんそれぞれ、特に記憶に残るのはどの曲のどんなエピソードですか?マスト 僕ら3人で初めて一緒に作った曲が入っているのが嬉しくて。“さよならの夏”っていう曲。これはイベントとかでは演らないけど、ワンマンでは必ず演るんですよ。これは確か初ライブの前日くらいに完成した曲。レコーディングも1日で終わったんだよね。そしたら評判よくて。なので、この曲を聴くとあの頃を思い出します。
リョーサ 2008年か。この曲から15年。いろいろ思い出あるよね。
──だいちゃんさんはどうですか?
だいちゃん 僕は“じんがねーらん”ですかね。この15年の間に、きいやま商店として海外にもいろいろ行かせてもらうことができまして、海外でいちばん受けていたのが“じんがねーらん”だったんです。「お金がない」っていう曲なんですけど、それは万国共通なんですね(笑)。《じんがねーらん》っていうところだけ、その国の言葉にして歌うんですよ。ベトナムに行った時なんかは、日本とベトナムのオフィシャルな交流会みたいなイベントで、相当でかいステージだったんですけど、ゲストがももクロ(ももいろクローバーZ)と五輪真弓さんと僕らっていう。なぜ僕らが呼ばれたのかわからないんですけど(笑)。
──すごい組み合わせですね。
だいちゃん そう。でもそんなイベントで“じんがねーらん”がめちゃめちゃ盛り上がって。そういうパンチのある曲が今回入ったのも嬉しいです。
──それにしてもこの“じんがねーらん”、つまり「金がない」っていう曲が、地元の信用金庫のCMに使われたっていうのも、すごくいい話だなあと思います。
だいちゃん そうそう。めちゃくちゃセンスありますよね。
リョーサ 俺らが逆に「いいんすか?」って訊きましたから(笑)。大丈夫ですか?って。
──リョーサさんはどの曲が思い出深いですか?
リョーサ 僕はもう“土曜日のそば”ですね。
──ああ。これはもうおばあさまとの思い出をそのまま歌にしたような。
リョーサ 今回のジャケットの裏にも僕らがそばをすすってる写真がありますけど、ばあちゃんは昔、そば屋さんをやっていたんです。
──ああ、八重山そばの。
リョーサ そうなんです。その八重山そばがおいしいって有名で。だから僕らは小学校の頃、土曜日は半ドンで終わる(午前中で授業が終わる)から、よくばあちゃんちでそばを食べてたんです。
マスト 毎回そば食べてたよね。そばかカレーだったな。
リョーサ うん。やっぱり、バンド名もばあちゃんの店の名前からつけてるし、ばあちゃんがいるから僕たちがいるので。だから歌詞を書いてた時のことも覚えてる。床に寝っ転がりながら歌詞を書いてたんですよ。すぐできたよね。
マスト レコーディングスタジオで書いてたよね。
リョーサ そう。寝っ転がりながら譜割りを合わせながら。だからほんとにストレートな歌詞で。飾りもなく。
──あったかい歌です。
リョーサ ばあちゃんも喜んでくれて。その頃はまだばあちゃんも店やってたので、ファンがばあちゃんの店に行くんですよ。で、ばあちゃんは嬉しそうにその人の名前を訊いて書いておいて。そのノート、今でもあるかなあ。
──これもファン投票で人気の高かった曲ということですよね。
リョーサ そうです。上位でした。
──ファンがきいやま商店に求めるものが、すごくよくわかる結果だなあと思います。ライブで盛り上がる曲だけでなく、懐かしくてあたたかい曲も大事にされているんだなあと。
マスト そうですね。だから三線が入っている曲も多いなあって思いましたね。沖縄のバンドだから、きいやまのオリジナリティがある曲が多いかもしれない。
リョーサ “十八番街”が入ったのも嬉しかったね。
──“十八番街”こそ、超ローカルな曲ですよね。
マスト これはそんなにライブで演ってなかったのにね。
リョーサ これは三線だけでもいける曲なんですよ。唯一、三線1本でいける曲。だから、これが入ったのは嬉しいですね。
だいちゃん 僕は“アノコトバ”が入ってきたのも意外でした。あまりライブでも演らないので。
──“アノコトバ”はバラードのラブソングですよね。
リョーサ これはナオト・インティライミと一緒に作って。で、僕らはいつも3人で歌詞を作るんだけど、バラードは恥ずかしくて歌詞が出てこないんすよ。ナオトはそれを知っていたので、3人に「宿題」って言って、個別に「殴り書きでいいから、個人個人で書いて、それぞれ俺に送ってきて」って。だいちゃんとマストが何を書いたのかは俺はわからないし、でもそうやってみんなが送ったのをナオトが全部まとめてくれて。
──3人がそれぞれに「ラブソング」というテーマで歌詞を送ったんですね。
リョーサ そうです。ナオトが「嫁さんに感謝の気持ち、書いてみない?」って言って。3人で作ってたらやっぱ出てこないと思うんですよ、この歌詞は。だから唯一の曲ですよね。
──ナオトさんの見事なプロデュースによって生まれた曲がもう1曲、今回のベストに入ってますよね。“きいやまのアカサタナ”。
マスト そうですね。「あ」から「ん」まで、方言で作詞できないかって。それで作って、それにメロディをつけてくれて。
リョーサ レコーディング中にナオトが、ここで「マリオ」(の効果音)を入れたら面白いなって、どんどん面白いアイデアが追加されていきましたね。
──初めてCD化される曲もありますよね。“シュラヨイ”は昨年、沖縄本土復帰50周年ということで制作した楽曲で。
マスト オファーが来たわけでもないんですけど、いろんなアーティストがやってるし、俺たちもやろうっていうことで勝手に(笑)。初めて広い歌詞というか、沖縄のことを歌おうって、そういう作詞も初めてだったけど、鋭くいけたかな。
──ビート感がすごくかっこいい曲です。
だいちゃん ライブでやると楽しい曲なんですよ。
リョーサ エイサーの団体さんがこれをよく使ってくれていて。
──そうなんですね。確かにすごく合いそうです。
だいちゃん エイサーって、バラードとか壮大な歌が多いんですよ。で、俺らもそれを作ろうと思って取り組んだんですけど、1週間何も出てこないから、もういいかと思ってこの曲を作って。だからエイサーを意識した曲ではなかったんだけど、やっぱりエイサーに合うものになっていったんだなあと。今では「こんなのが欲しかった」って言ってもらえる曲になって、いろんな団体が独自の振り付けで使ってくれてますね。
──そうやって歌い継がれていく曲になるんですね。
だいちゃん ほんと、そうなってほしいですね。これから100年先にも定番曲になってくれたら嬉しいです。