●セットリスト
1. 5 月の呪い
2. 桜の木の下には
3. 夕立と魚
4. look at the sea
5. nazca
6. 色水
7. 砂と少女
8. 水仙
9. 走馬灯
10. シュガーサーフ
11. 蜂蜜
12. epilogue
(アンコール)
EN1. 泡と魔女
「おいしくるメロンパン アコースティックレジェンド」と題された今回のライブは2部制で、昼の部が「お昼寝マリア」、そして夜の部が「夜更かしナポレオン」と、それぞれに副題がつけられ、セットリストにも変化をつけての公演となった。その昼の部へと足を運んだ。昭和2年に建てられたという講堂は清冽な空気を感じさせて、そこに射し込む午後の陽射しがとても美しく、会場内へと足を踏み入れた瞬間から、あたたかく穏やかな気持ちになるのと同時に、ピリッとした緊張感も感じた。その独特の雰囲気が、おいしくるメロンパンの音楽が表現するものにマッチする気もして、観客もいつにも増して静かに開演を待っていた。
定刻通りの15時。その穏やかな午後の静寂を打ち破ったのは、峯岸翔雪(B)のナレーションによるジングルだった。「世界を救うために旅に出た3人の勇者たちの物語!」という、特撮物のオープニングのような芝居感たっぷりの力強い声がライブの始まりを告げる。静かな午後の空気を切り裂く突然のオープニングに皆が驚いている間にメンバーがステージに登場。峯岸は、ライブの前日に突然このオープニングを思いついたらしく、本人的には観客の爆笑を期待していたらしいが、今思い出すとかなりシュールで面白い。そんなこともあって、オープニングは少しギクシャクした空気になりつつも、その不器用な感じも彼ららしいし、それで場があたたまったというのもある。いつもと違う環境でのライブに漂う、どことなく初々しい感じ。まだ見ぬおいしくるメロンパンの魅力に出会える期待感も高まった。
途中にはさまれるとにかくゆるい感じのMCが良いリセット時間にもなった。3人とも「緊張している」ことを隠そうともせず、峯岸はオープニングのジングルで笑いが取れなかったことをまだ引きずっていたが、平泉成のモノマネだとか、ライブタイトルに掛けた「レジェンド話」など、いつにも増してアットホームな空気が流れた。で、そこから切り替わって演奏でガッと観客の心を捉えるのもまた彼らの得意とするところで、“look at the sea”で原のカホン、ナカシマのギター、峯岸のベースの順に、徐々に音が集まっていくイントロでは、すぐさま彼らの世界に引き込まれていった。そしてリズムの音だけをバックに歌い出すナカシマの声。ゆったりとしたテンポ感で聴かせるアレンジは、サビの3人の歌声のハーモニーやナカシマのファルセットもはっきりとした輪郭で聞こえて、新鮮な感覚だった。“nazca”では真昼の会場にオレンジ色の照明が重なり、リバーブの深いナカシマの声とあいまって、不思議な時間が流れる。どこか遠い国の音楽のような、幻想的なフォークロアを思わせるアンサンブル。面白い。“nazca”の可能性がまたひとつ広がる。“色水”では、ややレイドバック気味のリズムで魅惑的な気だるさを感じさせ、いつものことだけれど、3人だけの演奏でこれだけ様々な表情を見せられるというのは、彼らの強みだなと改めて思う。
いよいよライブも終わりが近づき、峯岸は改めて会場を見渡して「光がいい感じ。良いところだね」とつぶやく。今回のアコースティックライブを行うことは、実は去年のツアー前には決めていたそうで、「ツアー終わってから何かしたいよね、しなきゃねって思ってて、なんとなくアコースティックでって決めて、でもやり始めたらめっちゃこだわってしまった」と言って、「今まででいちばんリハに入る回数が多かった」とも明かした。原は「入るたびにアレンジが変わる」と続けると、ナカシマは「無駄にアレンジ変えすぎなんだよ(笑)。自分たちを追い込みすぎ」と自嘲気味に笑う。峯岸がさらに「新しい曲を覚えるくらい(アレンジを変えてる)」と言うように、何気ない思いつきで始めたアコースティックライブだったが、本人たちも思った以上にのめりこんでしまったらしい。いや、それでこそおいしくるメロンパン。確かに全曲新曲を披露するかのような緊張感もありつつ、でもそれを楽しんでいるのが頼もしい。
“蜂蜜”をこの形で聴くのはとても楽しみだった。もともとが生のグルーヴを感じさせる楽曲だが、この日はよりオーガニックで洗練されたアレンジで、気持ちよく体が揺れた。そしてラストは“epilogue”。より切なさを感じさせるナカシマの歌声。アウトロのエキセントリックなギターフレーズが変則的なパーカスのリズムに乗って、不思議な浮遊感のなかでエンディングを迎えた。大きな拍手。そしてアンコールを要求していいものかどうか、はじめは遠慮がちだったハンドクラップが徐々に大きくなって、メンバーが再び登場。予定にはなかったはずのアンコールに応えて、急遽“泡と魔女”を披露してくれた。よりジャジーなアレンジで聴かせる歌は、これもまた初めて聴く曲のように響いて、最後までしっかりと彼らのチャレンジとこだわりを見せつけてくれた。
この後の夜の部では“caramel city”や“水葬”、“candle tower”などがセットリストに入っていたようで、そちらを聴き逃したことは、今となってはとても残念な気持ち。ぜひ今後も様々な場所で、このスタイルでのアコースティックライブも継続していってほしいと思う。(杉浦美恵)