とはいえ。AC/DCのような終始どっかんばっかんの阿鼻叫喚の狂騒で押し切る、というライヴではもちろんない。というか、彼ら自身も相当な思い入れをもって臨んだこの日の武道館公演を、彼らは「高揚感とエンターテインメントのためのロック・ショウ」一辺倒ではなく、あくまで「自分たちの音楽世界をMAXに表現する場」として捉え、そこに挑んでいた。その決意が、静と動がスリリングに入り交じるこの日のライヴを何よりタフなロックンロール・アクトにしていたのだろう。と思う。
のっけから叩きつけた“そのTAXI,160km/h”のハード・エッジなギター・ロックの切れ味。「僕らとみんなで、この武道館にでっかい足跡刻もうじゃありませんか!」という光村の絶叫から突入した“ビッグフット”のソリッドなロックンロールぶり。サイケデリックを突き詰めた果てに極限までクリアな音像を獲得したような“(My Sweet)Eden”のスケール感(オーロラそのものみたいな照明も最高だった!)。そこに挿入される、「いやー、ついにやってきました武道館! 僕の初の武道館は、小学校低学年の時に観た松田聖子なんですけど」という光村の脱力MC。それらが渾然一体となって、彼らのにこやかでいながら常にシリアスにロックの「その先」を追求する姿勢を浮き彫りにしていた。
が、本当のクライマックスは、トライバルなパーカッションとともに雪崩れ込んだ“Lonesome Ghost”、そして“錆びてきた”“風人”“Aurora Prelude”“ホログラム”“芽”……つまり最新作『オーロラ』の世界が巨大ステージで展開された瞬間だった。火の玉の特効とともに文字通り武道館の温度を上げた“錆びてきた”“風人”の怒濤のエネルギー! 静謐なピアノの調べとともに響き渡る、“Aurora”の光村のメロディアスな絶唱! そして、光村/古村(G)/坂倉(B)/対馬(Dr)のダイナミックなサウンドと強靭な歌が会場の空気を1つのでっかいベクトルへと編み上げた“ホログラム”! 途中、「千葉LOOKの開演直前にトイレに行きたかったが行けず、終演後3時間近く経ってから行ったら痛かった!(光村)といったツアー中のほのぼのエピソードのコーナーを挟んではいたが、彼ら4人が鳴らす「今」のサウンドはそれくらいの「ほのぼの」ではとても中和されないくらいに目映く、激しいものだった。
“GANIMATA GIRL”“THE BUNGY”“Broken Youth”と必殺曲を畳み掛けた後、再び新作から“かけらー総べての想いたちへー”“トマト”の2曲でじっくり、そして熱く本編を締め括ったNICOの4人。アンコールで再びステージに現れると、「せっかくの武道館なんで、僕らにしかできないことを……」と、スタッフの手を借りて、ステージ上の機材をごっそりセリ台の狭い前っ面スペースに運び出してみせる。「これでちょうど、下北沢251のステージと同じくらいなんだよな」と光村。この巨大な会場で、彼らは自分たちの「今」と「原点」を一気に露にしながら、堂々のロック・アクトを体現してみせたのである。
さらに、「突然ですが、お知らせがあります」という光村の言葉に、会場がざわめく。「……ツアーをまたやります! 5月からなんですけど、初めてやる場所ばかりです! しかも、そのツアーでは毎日、新曲をやろうと思ってます」という言葉に、会場がどよめきと歓喜に包まれる。ちなみに、次のライヴハウス・ツアーのタイトルは「ミチナキミチ」。「道なき道」と「未知」と「泣き」が交錯するツアーにしたい、という説明に、会場内の期待感はさらに高まる一方だ。そこへ続けて新曲“速度”を披露。ハイブリッドなビートが目の前の風景を桜吹雪のように蹴っ飛ばしながら疾走する、爽快なナンバーだ。
正真正銘ラスト・ナンバーは“壁”。《遮ってるもの 全部越えていく》……曲が進むごとに熱とヴァイブを増してきた光村の歌が、この最後のフレーズで壮絶なほどの戦慄と美しさをもって響いた。2時間半以上に及ぶ渾身のステージ。だが、彼らの視線はすでに未来に向いている。それを強く実感させる、圧巻のライヴだった。(高橋智樹)
