リンキン・パーク @ 幕張メッセ9・10ホール

「私たちが、最後に、日本に来てから、2年が経ちました」と、アンコールのMCで幕張メッセのオーディエンスに日本語で語りかけるマイク・シノダ。「この2年の間に、世界中から、あなたたちへの想いが、寄せられています。私たちは、この大変な時でも、強く、前向きに頑張っている姿に、強く感動しています」……一言一言、噛み締めるように伝えるマイクの言葉に沸き上がる大歓声! 『A THOUSAND SUN JAPAN TOUR 2011』というタイトルの通り、09年サマーソニックでのヘッドライン・アクト以来2年ぶり&単独では約4年ぶりとなる来日公演にして、新作『ア・サウザンド・サン』を引っ提げての幕張メッセ×2(1日目=10日は追加公演)/横浜アリーナ/名古屋・日本ガイシホール/インテックス大阪の5公演にわたって日本国内をサーキットする一大ツアー。だが、この日の6人のステージは、「世界でトータル5000万枚以上のセールスを誇るモンスター・バンド」の余裕は微塵も感じさせなかった。むしろ、日本の今の状況に少しでも自らの音楽で作用したい――という全力の音とメッセージのカタマリのようなアクトを、世界最大級のライブ・バンドたる彼らは見せてくれた。

※ 以下、曲目などネタバレ回避したい方はツアー終了後にご覧ください。

今回のジャパン・ツアーではこの日のみ、韓国の4人組=CNBLUEがオープニング・アクトを務めている。韓国国内で1stアルバム『First Step』を10万枚売り上げているだけでなく、ここ日本でもインディー盤『392』をアルバム・チャート6位に送り込み、今月25日にはインディー時代最後のライブを横浜アリーナで敢行する彼ら。「オルタナティブ・ロック・バンド」と自分たちのことを紹介していたし、冒頭の“Let's go crazy”はじめオルタナ的な曲ももちろんあるのだが、どちらかといえば曲によってマルーン5からレッチリまで連想させるようなアメリカン・ロック王道感にこそ、彼らのロック・バンドとしてのダイナミズムの源泉があるようだ。全7曲・30分のアクトの中で“Coward”を日本語詞で歌い上げたり、「日本語むずかしいですね! そして、未熟な僕たちを観てくれてありがとうございます!」(ジョン・ヨンファ/G・Vo)、「2年前、日本でインディーズ活動をしていた頃、
サマーソニックでリンキン・パークをいちばん前で観てました!」(イ・ジョンヒョン/G・Vo)と日本語で語りかけたりしながら、広大なフロアの温度をじりじりと上げ、最高のバトンを後へとつないでみせた。

そして18:43、いよいよリンキン・パークの登場! オープニング・ナンバー“The Requiem”から新作『ア・サウザンド・サン』の世界で全編を覆い尽くす……のではなく、続けて1st『ハイブリッド・セオリー』から“Papercut”、2nd『メテオラ』から“Lying From You”、前作『ミニッツ・トゥ・ミッドナイト』から“Given Up”“What I've Done”……といった過去曲絶唱の連打でもって、リンキン降臨を待ちわびたオーディエンスの情熱に一斉点火! 最新作の世界への長い長い助走のようでもあり、過去曲も全部引っ括めて『ア・サウザンド・サン』の世界の座標の中に位置づけるアーティスティックな試みでもあるような、スリリングでエモーショナルな序盤の展開で、ジャパン・ツアー初日の幕は開いた。そして何より、この日のアクトがはっきり物語っていたのは、「最新型リンキン・パーク」の音楽的な機能性の高さだ。

マイク・シノダがチェスター・ベニントンとの2MCスタイルを披露したのは、アンコール含め1時間40分ほどのアクトの中のほんの一部。多くの曲でギターを操ってブラッドとともに轟音ギターの壁を築き、ピアノの調べで静謐の風景を描き出し……とステージ狭しと動き回りながらアンサンブルの核を成し、バンドを前へ先へと転がしていく図は、さながら「鉄壁の中盤」もしくは「司令塔」のそれだ。そして、曲によってより柔軟かつダイナミックに音のフォーメーションを変えながら、虚空に魂を噴き上げるようなチェスターの歌にさらなるエネルギーを与えていくのである。当初はハイブリッドなヘヴィ・ロックの極みのように評されていたリンキンの歌と音が、その音の手触りを保持したままスピリチュアルなヴァイブを帯びているのは、表現者としてのチェスターの進化のみならず、よりしなやかになったバンドのサウンドがあればこそだろう。それこそ音圧面で言えば遥かにラウドでパワフルなバンドが無数にいるであろう中で、それでも時にエレクトロだったりインダストリアルだったりする『ア・サウザンド・サン』のリンキンの音が無限のロック・ユニバースを描いて、聴く者を途方もないイマジネーションの旅へ誘えるのはそういうことだ。

“Empty Spaces”“When They Come For Me”といった『ア・サウザンド・サン』の楽曲でリンキン流スペース・オペラとでも言うべき音像を展開して数千人コーラス状態へと導いた後は、“Jornada Del Muerto”“Waiting For The End”といった新作曲に“No More Sorrow”“Numb”“Breaking The Habit”といった代表曲を惜しみなく織り合わせながら、1曲ごとに戦慄と高揚感を描き出すような圧巻のステージ。震災直後から自ら創設した団体「MUSIC FOR RELIEF」を通じて支援やチャリティ活動を展開し、来日前にも「僕たちの来日公演が、傷ついた日本の皆の魂を高めてくれることを願います」(マイク・シノダ)とメッセージを寄せてきたリンキンが、他でもないそのロック・バンドとしてのサウンドのスケール感でもって、オーディエンス1人1人の魂を掴んで揺さぶっていくような、壮絶なまでに感動的な体験だった。

本編ラストはなんと“Crawling”“Faint”“One Step Closer”3連射! 本編に盛り込まれていなかった“New Divide”もアンコールでしっかり披露し、さらに“Breed It Out”まで! 新作ツアーとしてのコンセプチュアルなアート性と、あまりにも壮大でダイレクトなコミュニケーションとしてのライブ・アクトの熱量を、超高次元な形で融合させてみせたリンキン・パーク。最後、6人がピックからスティックからステージ・ウォーターまであげられるものは全部フロアに投げ与えた後で、マイク&チェスターがにこやかに肩を組んで大歓声に応えてみせた場面まで含め、すべてが感動的な一夜だった。幕張2日目の分はすでにチケットはソールド・アウトしているようだが、9月11日・朝9:30の段階では横浜(スタンド指定席のみ)/名古屋/大阪(残りわずか!)はまだチケット入手可能のようだ。リンキンの「今」をぜひとも1人でも多くの人に目撃してほしい!と切に願ってやまない。(高橋智樹)
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