文=増田勇一
「ブラック・アルバム」という通称で親しまれてきたメタリカの第5作には、全12曲が収録されている。そして、そのトリビュート作品であるこの『メタリカ・ブラックリスト』には、実に53組による同作収録曲のカバーが詰め込まれている。
たとえば“エンター・サンドマン”は6組、“ジ・アンフォーギヴン”は7組、バラード曲の“ナッシング・エルス・マターズ”については実に12組が競演する形になっていて、この曲だけでアルバムが1枚成立するほどなのだ。メタリカ側がどのような方針をもって参加者と収録内容を決めたのかは明らかではないが、この過剰なほどの収録量と大胆な作風自体が掟破りである。
正直、すべてを通して聴くのは時間的にも体力的にもしんどいところがあるが、たとえばリスナー自身が各曲のベスト・テイクを選び、その人自身にとってのベストな12曲を並べてみる、という楽しみ方も許されるのではないか。ただ、たとえば“エンター・サンドマン”の場合で言うなら、ゴーストとリナ・サワヤマ、ウィーザーのトラックについて比較検討するなどという難題と向き合うことになるわけだが。
そうした聴き比べをしていて興味深かったのは、同じ楽曲についてあくまで歌を軸に据えた形で構築する参加者もいれば、リフやリズムから解釈を拡げていく向きもあるということ。
“サッド・バット・トゥルー”を例にとれば、サム・フェンダーの神々しい歌声にかかるとあのタフな楽曲がタイトルに似つかわしい悲しみに溢れたものに聴こえ、ベースとドラムという変則的体制によるロイヤル・ブラッドによるストレートな解釈は、原曲を今様にアップデートしたもののように感じられる。(以下、本誌記事に続く)
メタリカの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。