1年前の今頃、ツアー活動再開の見通しが立たない中、ミュージシャンたちはパンデミック下でのライブ・パフォーマンスの形を模索していた。ジャスティン・ビーバーも例外ではなかったが、彼が考案したのは、ストリーミングを行ないつつ、可能な限り多くの観客にナマでも観てもらおうというユニークなアプローチ。2020年の大晦日にLAのアイコニックなホテル、ザ・ビバリー・ヒルトン・ホテルを借り切って敷地内にステージを設営し、客室のバルコニーを客席に見立てて3年ぶりのコンサートを敢行したのである。
Amazon Prime Videoで先頃公開された『ジャスティン・ビーバー~僕たちのカウントダウンライブ~』はそんな試みを、当日のパフォーマンスとメイキングを交錯させて記録したドキュメンタリー・フィルム。厳しい行動規制に則って感染対策を徹底し、かつ、古いホテルの宴会場の屋根部分にステージを設営するというインフラ面のハードルを克服して、一夜限りのスペシャルな催しを準備するジャスティンと彼を取り巻く人々の姿を描くものだ。
その「彼を取り巻く人々」とは、精神面でのサポートを提供するヘイリー夫人であり、長年コラボしてきたスタッフであり、本作には間近でジャスティンの変化を見守ってきた彼らの証言もふんだんに伝えている。原題は『Justin Bieber: Our World』、つまりデビューEPのタイトル『My World』に因んでおり、家族やスタッフやファンの力を借りて、このような一大プロジェクトを形にするリーダーへと成長したジャスティンの現在地を示唆しているのだろう。
フィニアスとビリー・アイリッシュもバルコニーから見守る中で披露した肝心のショーも、また素晴らしい。心身共に消耗して前回のツアーを完遂できなかっただけに気合いは尋常ではなかったはずだが、見るからにリラックスした彼の歌は自信にあふれ、組曲風に仕立てて通底するテーマを浮き彫りにした“モンスター”(ショーン・メンデスとのコラボ曲)と“ロンリー~”ほか、ハイライトは枚挙に暇なし。これが前哨戦ならば、来年2月に始まる次のツアーはかなり期待できそうだ。(新谷洋子)
ジャスティン・ビーバーの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。